その死刑囚、16歳

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その死刑囚、16歳

〜 看守 視点 〜 頻繁に吹雪が吹き付け、常に外気は-89度、 酷い時には-100度を超える極寒の地。 東南極高原の中央に位置する場所に、比較的に新しく建設されたのが此処。 レベル5(ファイブ)のイセベルグ刑務所。   厚みのあるコンクリート建ての建物は、外気を中まで通さない為の造りであって、内部の者が外に出ない為の構造では無い。 寧ろ日々日常的に脱獄者が存在する程、逃走はしやすい造りだ。    其れだけ、外に出たところで生身の人間が生きていける環境では無いと実績と自信があるのだろう。 昆虫すら生存が出来ず、馬鹿な看守が西洋ゴキブリをどこからか持ってきた時には、僅か2秒で死ぬような環境だ。 看守には制服として分厚いロングコートと手袋が支給されるが、囚人は他の刑務所と同じく縞柄の七部袖のシャツとズボンのみ。 常に裸足で生活させている彼等は、暖房設備があるとは言えど、凍傷を引き起こす者も多い。 その大半が、フリータイムに外の運動場で馬鹿みたいに遊び回った連中だ。 「 やめ、やめてくれぇ……!! 」 「 凍傷させたのは御前だろ。殺すわけじゃない…脚を斬り落とすだけだ。其れで生きていけるんだから、寧ろ喜ぶべきじゃないのか? 」 「 いっその事…殺してくれ!!!ぎゃぁぁあっ!!! 」 麻酔も無く、凍傷した部分を電動ノコギリで斬り落とすのは見慣れた光景だ。 鮮血が吹き出すのは一瞬、その後外気が血液を止めるのだから、荒療治とは言えど時間を掛けての治療より楽に終わる。 終身刑か死刑囚しか居ないここでは、看守の連中も狂ってる為に、此の治療を拷問の様に楽しんでる者が存在するのも確か。 囚人が気を失い、壁や窓にすら飛び散った血の治療部屋を横目に見ては、鍔の硬い帽子を下げ、呼ばれている場所へと向う。 刑務所の先端にある、重々しい扉が自動で開くと雪を被った護送車が入って来た。 「 No.S-89(ハク)。聞いてるかよ…今回の囚人…、今までの中で一番若いんだってさ 」 襟を覆う黒いファーが付いたコートの中へと、密かに赤くなった鼻先を埋めてる同僚の言葉を聞き、護送車へと視線を戻す。 「 如何でもいい 」 「 はっ、連れないねぇ… 」 呆れる様に小さく笑った彼を見る事なく、停まった護送車から下りてきた警察官に敬礼をし、彼等の元へと向う。 「 ご苦労様です 」 「 此方こそ、では…引き渡しを行います 」 「「 はい 」」 この瞬間が一番緊張する。 囚人が一番暴れて逃げやすい事もある為に、ここにいる全員が気を引き締め、護送車の後ろにある厳重な扉が開かれ、中から囚人が下ろされる。 「 ほら、さっさと下りて歩け 」 下りてきたのは黒い目隠しをされ、灰色かかったショートカットの高身長の者で、足元を何処と無くふらつかせ歩く。 両手と両足に枷と鎖をし、其処が冷たさで青黒く変色し、凍傷になりかけていた。 「 ……… 」 囚人は、肩を押されるままに歩き俺達の元へと来れば、同僚が彼の肩を抑えてから歩き出したのを見て、俺は向けられたカルテにサインを施す。  「 無事に引き受けました。帰りの際はお気をつけてお帰り下さい 」 「 はい。では…我々はこれにて失礼します 」 多くの会話をすると喉が凍って喋れなくなる。 その為、全員が早く建物内に入りたいと思ってるからこそさっさとやる事を終えて、 サインをした書類を返し、彼等が護送車に乗って帰るまで敬礼をしてから、コートを揺らし建物内へと戻る。 厳重な三重扉の先に行けば、同僚と他の連中が個室で囚人の枷を外し服を脱がせ、壁に両手を当てさせ、検査をしていた。 「 ナカには隠してねぇな。ほら、服着ていいぞ 」 左肩から、左側の身体にかけてある黒のトライバル柄の刺青がびっしりと入り、割れた腹筋や厚みのある身体を見て、年下には思えない程にしっかりと鍛えてる事が分かる。 「 No.S-89(ハク)。今回の囚人だ。分かってるだろうが、御前の担当エリアに入るから確認しろ 」 「 はい 」 上司から差し出された紙を受け取れば、そこには事前に撮影した写真と名前となってる番号、年齢、血液型、身長、体重、そして犯罪履歴やら事細かく記載されていた。 上から下まで通していれば、上司は言葉を続けた。 「 殺人した被害者の特徴は書かれてないから言っとくが、殺されたのは54名。全員16歳から28歳の男であり、身長178cmから183cmのA型。スラッとした細身という共通点がある 」 「( 回りくどいな… )」 普段なら余り言わないような事だからこそ、紙を四つ折りにし、ズボンのポケットに突っ込みながら言葉を返す。 「 つまり、俺がその被害者の共通点に似てるから気をつけろ…って事を言いたいんでしょ? 」 「 嗚呼、せいぜい囚人なんてこの世のカスに絆され無いようにな 」 「 はっ、何年この仕事してると思ってるんですか。そんな馬鹿な事になりませんよ 」 囚人に私情を挟んで身を滅ぼした連中を多く見ている。 特に、少しだけ容姿が良かったり愛想が良く、性格の良さげな者に心身共に疲れている看守は油断しやすくなっている。 だが、結局は重罪を犯した者に変わりない。 どう善人の仮面を被ったところで悪人でしかない。 「 それに俺…特に殺人罪で来た奴、大ッキライなんで。問題ないです 」 「 ふっ…ならいい。処刑日は特に決まってない。反省の顔色が見えたらそこで処刑される事になってる。それ迄は…終身刑の連中と同じ扱いだ 」 「( 人殺ししたのに反省してないだと?クズにも程がある… )」 呆れて何も言えなくなれば、上司は俺の肩に触れてから背を向け歩き去った。 「 まぁ、適当にやってくれ 」 「 お疲れ様でした。( また酒飲みながら寝てるんだろうな )」 どの刑務所にいる上官も似たようなもの。 下の連中に全ての責任を押し付け、自分達は酒を飲み交わしポーカーをし、そして暇さえあれば寝てるような連中だ。 それで、税金をたらふく貰ってるのだから羨ましい立場ではあるが…中には真面目に働いてる奴等もいる為に何も言えない。 「 んじゃ、これで終わり。今から御前のお友達の場所に案内するから、しっかり歩けー。No.S-89 行くぜ 」 「 …………… 」 「 嗚呼 」 No.2313 16歳という若さで54名の男を喰い殺した殺人鬼。 そして反省してる発言や顔色が無い為に、死刑が決まってるも、実行日までは未定で終身刑と同じ扱いとなる囚人。 「( また、面倒なのが入ったな… )」 少年刑務所なんて場所では手が付けられないから、混合収容による悪風感染を防止し…なんて思考にもならず此処に突っ込まれたのだろう。 脱獄をしたり囚人同士の喧嘩や看守に手を出さない限り、こんな場所に移動させることは無いけどな。 「( それもエリアSに来るなんて… )」 他の場所とは違い、エリアSは全てが個室となり、他の囚人との接触を禁止、避けてる場所である。 その多くの理由が、囚人同士のトラブルを避けた目的であり、 他のエリアから囚人を重傷にさせた、殺してしまったなどで此処に来る者達が多い。 だからこそ、初日から此処である必要なのは… 彼の犯行が事実であるってことを言ってるようなものだ。 「( 人を喰わないようってことか…本当に、カニバリズム者なのか… )」 右を横目で見れば、俯いてトボトボと歩く囚人はそんな風には見えない。  見えないだけで罪を犯した連中は多くいる為に、油断する事は無いがな…。 看守の虹彩認証でしか開かない扉の先へと入れば、一階と二階の空間に其々1.5畳程度の個室がズラッと現れる。 「 えっと… 」 「 2階の108号室だ 」 「 あ、そうだった。そうだった 」 「 覚えとけよ… 」 与える部屋を忘れていた同僚に呆れ、軽く溜め息を吐いてから歩き出せば、囚人達の声が投げ掛けられる。 「 おぅおぅ!新しいお友達だぜー? 」 「 ちょっと顔上げろよ、かわい子ちゃん 」 「 何人殺したんだよ!おい、答えろや! 」 新しい囚人が来たらいつもこれだな…。
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