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邪魔銭の秘密
その後バブル景気が起きた。私は資金を元手に土地を買っては転売して、どんどん資産を増やして行った。
資産が20億円を越えた時、突然早織が離婚を切り出して来た。私は抵抗したが、愛人との密会現場の写真を提示されて観念し、離婚届に判を押した。早織は10億円を受け取り家を出て行ったが、何故か最後に500円玉を私に見せてから、タクシーに乗って去った。
離婚の翌月にバブルが弾けた。土地の価格が暴落して、私は一気に資産を失った。借金返済で豪邸を売却、ボロアパートも追い出されて路上生活をするまでに転落した。
朝早く公園の炊き出しに並んだら、味噌汁を配っていた一人が何と田嶋師範だった。どうやら私が並ぶと解っていたらしく、師範は私の肩をポンポンと叩くと「有難う。いや、本当に有難う!」と何度も有難うと言った。
「裏奥義・邪魔銭は禁断の技でね。仕掛けた本人も潰れるんだよ。それも欲に応じて大きく膨らみ、絶頂から奈落へ転落する。そしてその呪いは、別の人間が邪魔銭を仕掛けるまで続く」
その時に、何故師範が500円玉1枚に大喜びしたのか、ようやく理解した。馬鹿は私の方だった。
「だから俺は財産を築かずに、あの土地も久坂君の名義に変えた。キミならいずれ邪魔銭の技を使うだろうし、欲まみれで資産をパンパンに膨らませてくれるだろうからね。まるでキミの麻袋の様に」
私の麻袋が大きかったのは、それだけ強欲だと言う暗示だった。
「俺には一人娘がいてね、早織と言う名前だ。私は若い時にカッとなって邪魔銭を使ってしまった。一人娘に資産を残してやりたくても出来ない。だから強敵(とも)だった東雲親子に頼んで、ひと芝居打って貰った。久坂君に早織を紹介すれば、キミは娘を選ぶ運命だったからね。「敵の首は霊力が宿る」と教えただろう?」
そう言って、師範は腰にぶら下げていた私の麻袋を掲げて見せてから、ポーンと私の足元に投げた。
「これは元々久坂君の麻袋だ。早織は再婚が決まったし、今のキミには大金だろう。俺からのお礼だ、遠慮無く受け取ってくれたまえ」
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