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私は銭道を軽く考えていた。師範の説明の一つ一つが、衝撃となって私の身体を貫いた。
「銭」は金編と(矛で)切り刻むと言う意味が由来である事。そして「道」は敵の生首を持って歩く習慣が由来である事。首には霊力が宿り、持ち歩く事で浄める事が出来る事。
平安時代から銭道は密かに伝承され、達人が首を持ち歩いて浄める事で、天変地異からその土地を護って来た歴史。太平の世となった江戸時代以降は、麻袋に小銭を入れて生首の替わりにした事。小銭には霊力が宿り、莫大な財産を持ち主にもたらす事。時代と共に伝承者が減り、今は世界に8名だけで日本人は田嶋師範だけになった事.......師範の話が終わったのは夜11時を過ぎていた。
「久坂君の財布には6千円入っていた。全部10円玉と5円玉に両替したから、この袋を持ち歩きなさい」
それから毎週その一軒家に通い、銭道の基本を学ぶ日々が始まった。生首の所でドン引きしたが、「莫大な財産を持ち主にもたらす」と言う所に胸が踊った。
銭道を極めるには、厳しい修行が待っていた。先ず紙幣はすべて"刻む"ので小銭しか持てない。早朝には麻袋を持ち歩いて街の周辺を浄化する。更に麻袋を奪おうとする輩から護る為の防御術も鍛練する必要があった。技の殆どは麻袋を振り回して相手を殴る技だったのだが。
師範の麻袋は小さく、私の麻袋は師範の5倍くらいあった。師範は私の麻袋の大きさを「見事だね」といつも褒めてくれた。
師範との修行の日々が続く事13年目、ついに師範から
「久坂君、後は銭道の究極奥義の技を伝授すれば、もう教える事は無い」
と有難い言葉を貰った。
店が増えて来た商店街を二人で"浄化"していると、チンピラ5人に絡まれた。
「おい、オッサン。これみよがしにジャラジャラとカネの音させやがって。預かってやるからオレらに渡しな」
すると待ってましたとばかりに、師範が麻袋に右手を入れる。
「久坂君、これが田嶋流銭道の究極奥義・善意散雨だ!」
バッと小銭をバラ撒いた。チャリンチャリ~ンとハデな音が響き渡る。
チンピラ達が落ちた小銭に目を奪われると、歩行者達が次々と近寄って
「ハイ、どうぞ」
と小銭をチンピラ達に渡して行く。
「あ、どうも」と260円分の小銭を受け取った頃には二人の姿は無かった。
「おめでとう久坂君。究極奥義も伝授して、晴れて免許皆伝だ!」
走って逃げる師範の笑顔を、私は今でも覚えている。
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