大願成就

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大願成就

私は麻袋から手に入れたばかりのJCBカードを差し出すと、言った。 「カード払い、10回の分割で!」 銭道の神髄は"刻む"事だ。ならば、カードの分割払いで刻めば良いのだ。 「ぐっ.......か、畏まりました」 東雲の顔が苦痛で歪む。JCBカードの発売開始は1961年。師範達では考え付かない、新時代の刻み方だった。 師範は本当に道場の名義を私に変えると引退を宣言。世界で8名いる銭道界に衝撃が走った。そして久坂流銭道場を開いた私だったが、調子に乗ってカード分割払いをしまくり、借金5百万円を抱えてしまう。 この窮地を救ったのが、師範から受け継いだ道場だった。1982年、郊外だった場所に駅が出来て土地の値段が高騰したのだ。土地を7千万円でアッサリ売却した私は借金を完済。会社も辞めて個人事務所を開いた。よく通帳を眺めながら 「小銭の持ち主に莫大な財産をもたらすって話は本当だったな」 と思った。正に銭道恐るべし。 師範が訪ねて来たので、どうせ土地で儲けた分け前が欲しいのだと思った。だから「銭道の神髄は小銭ですよね?」と言って、流通し始めたばかりの500円玉を1枚渡して追い返した。その500円玉に裏奥義・邪魔銭を使って。ついでに古くなった私の麻袋もポーンと師範の足元に投げた。 師範は麻袋を拾うと喜んで帰って行った。これから潰れる師範が馬鹿で良かったとホッとした。 私が金持ちになったと知るや、東雲が近付いて来るようになった。若い女を沢山紹介してくれたから「兄弟」と呼びあう仲になった。そして私は一番気に入った早織と言う女性と結婚した。
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