銭道との出会い

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銭道との出会い

1960年代の日本は高度経済成長期で勢いがあった。池田勇人内閣の所得倍増計画など、世の中が自分の給与UPに敏感となる中で、私は新入社員として働き始めた。 どうすれば金持ちになれるのかを日々考えていた時、郊外の古い一軒家に「田嶋流銭道」と筆文字で書かれた看板を見付けた。これが田嶋師範との運命の出会いとなる。 てっきり「金儲けの手口を教えてくれる」と思って玄関を叩いた。応対した田嶋師範は私をジロッと見ると「歳は?」と聞いた。私が「23歳です」と答えると「入りなさい」とぶっきらぼうに言われた。 応接室に通されて「金持ちになりたいんです」と私の話をジッと聞いた後で、師範が言った。 「久坂君、銭とは何だと思う?」 「はあ?お金......ですか?」 「では久坂君、道とは何だと思う?」 「はあ?人が歩く所ですかね?」 すると師範は「今日は帰りなさい」と言って、それきり黙ってしまった。 株式がどうとか不動産がどうとかでは無くて、禅問答みたいな質問に戸惑った私。正解が気になって、翌日も会社が終わるとその一軒家に行った。 私をまたジロッと見る師範。私が「昨日の答えが解らないので教えて下さい」と言うと、何故か「道着に着替えなさい」と玄関に畳んであった道着を手渡した。どうやら師範は私が今日も来ると解っていたらしい。その割にはサイズが大きかったが。 言われた通りに道着に着替えると、今度は「財布を出しなさい」と言われた。私が財布を出すと師範は紙幣を全部ひっこ抜いてしまった。 「ちょ、ちょっと!」 慌てて止めようとした私は「喝!!」と怒鳴られてしまった。そのまま二階へ姿を消した師範。 まさか会費で有り金を全部巻き上げるつもりなのかと疑ったが、暫くすると師範が戻って来た。パンパンに膨らんだ麻袋を手に持って。 「久坂君、これが銭の答えだ」
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