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「送っていかなくて、ほんとにいいの?」
「そんなに遠くないし、明るいし、大丈夫」
玄関でくちづけを交わして、私は家に帰ることにした。昨日、身体は一気に近づいたけど、実はまだ私の心の中で彼は「横井くん」だ。「勇登くん」も「勇登」もなんだかしっくりこなくて。これからゆっくり付き合って、しっくりくる呼び名を探していけばいい。時間はたっぷりある。
家に着き、バッグから鍵を取り出そうとして気づいた。ロッカーの鍵。図書館に荷物を忘れている。
昨日は荷物が多くて、図書館のロッカーは狭いから、一つでは入れ切れず、二つ使ったのだ。横井くんが来た動揺で、もう一つの荷物のことが頭から吹っ飛んでいた。
あわてて大学に戻り、図書館のロッカーから荷物を取り出し、もう一度帰ろうと踵を返した途端。ハウリングのような、キィンという音がした。
《リセットしますか?》
今までこの声が聞こえてきたのは、私が横井くんのことをあきらめかけていた時だ。
無意識に、リセットしなければもっとつらくなるのだと、思い込んでいた。
私は今、幸せの絶頂にいる。
それでもこの声が聞こえるというのは、どういうことなのだろう。
リセットした方がいいという警告なのだろうか。
それとも。
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