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ユートピア Eutopia
俺は自分の名前が嫌いだ。
登竜門の鯉の滝登りとユートピアを掛けて、勇登。勇ましく滝を登って龍になるようなバイタリティはないし、とりまく環境も全く理想郷ではなかった。登竜門もユートピアも完全に名前負け。
何を言っても無駄。物心をついて最初に学習したのはそれだ。
隣に住んでいる幼馴染には、一目見た時から嫌なものを感じていた。笑顔で挨拶されているのに、なんだかぞくりとする。関わりたくない。
幼馴染の破綻した人格は、初めて二人で留守番をさせられた時に現れた。
対戦型ゲームをして、僅差で俺が勝ってしまった。そしたら、ゲーム機で殴ってきて。ひび割れた画面。鈍い頭の痛み。一瞬、何が起こったのか、わからなかった。
幼馴染はそのまま部屋の中にあるものを壊して回る。幼馴染の父親が大切にしている釣竿を折り、幼馴染の母親が大切にしている花瓶をテーブルから落とし、幼馴染自身の服をタンスから取り出してハサミでずたずたに切った。
やめなよ。怒られるよ。片づけよう。
何度も叫んだけど、幼馴染は完全に無視して、部屋を荒らし続ける。
幼馴染の両親が帰ってきた時、ほっとした。ようやくこの面倒も終わる。そう思ったのに。
幼馴染は大人たちに駆け寄り、同情を誘うような声でこう言った。
「勇登くんが急に物を壊し始めたけど、びっくりして、何もできなくて。私も一緒に片づけるから。勇登くんも本当は悪い子じゃないから、許してあげて」
泣きながらそんなことを訴える幼馴染を、疑う大人はいなかった。
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