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山内有紗。初めて彼女を知ったのは、図書カードだった。俺が興味を持つ本に、なぜか必ず書いてある名前。単なる偶然ではあるが、俺は彼女の読んだ本を後追いしていた。そのことをもちろん彼女は知らない。
あまり利用者のいない、高校の図書室。本はたくさんあるし、全てを読むことはできない。試しに興味が湧かない本も何冊か確認してみたけれど、その図書カードには名前がない。やっぱり好みが似てるんだ。
二年生で同じクラスになって、初めて顔を見た時、この子か、と思った。地味で真面目。成績は中の上。見えている部分の情報は、あまりにも少ない。
しばらくの間、山内と横井で席が前後だった。真後ろだと、読んでる本の表紙がよく見える。彼女はいつも俺の興味をそそるタイトルを選択していて。
閉塞感のある現実に風穴を開けてくれるような、人類が滅亡した世界で仲間を発見したような、そんな思いを抱いていた。
彼女のことをもっと知りたい。でも、必要事項を話し掛けるだけでもなんだか引いているような空気を感じる。苦手な奴に話し掛けられたところで、山内さんも負担だろう。
話し掛ける勇気が持てないことを、そんな言葉でごまかした。
犬が逃げようとするたびに電気ショックを与えるとどうなるか。そんな実験をした学者がいたらしい。鬼畜の所業。電気ショックをやめ、鎖を解き、自由に動ける状態にしても、犬は逃げなくなった。何をやっても無駄だと学習したからだ。
逃げられない、全てを諦めた犬。
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