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◇◇◆◆◆
山内さんとの接点がない。学部は同じでも学科が違うから、当然かもしれない。
地下書庫で遭遇することもなくなった。
地下書庫への入室台帳は、入室と退室、両方とも時間を記入しなければならない。台帳を確認すると、山内さんは俺が退室した後を見計らうようにして入室していた。
俺との接触を避けている。当然なのかもしれないけど、ヘコんでしまう。
来るものは拒まずだったはずだけど。面倒になって、来るものも拒むようになってしまった。
一人拒めないのが、幼馴染だ。完全に拒んだ方が厄介なことになるから。
母親同士の仲がよく、家族ぐるみの付き合いだ。病的に外面がいい彼女とは一生縁が切れないと諦めたので、絶対に一線だけは越えないことにしている。関係を持ったら絶対面倒極まりないタイプだし、そもそも全然やりたくない。
幼馴染は彼氏と上手くいかなくなったり、別れると、俺のところに来る。とにかく話を聞いてほしいのと、自分より不幸な人間を眺めて満足したいからのようだ。
幼馴染にとって俺は、感情の捌け口で、綺麗なゴミ箱。
とにかく刺激しないように、息を殺す。
恵まれた環境にいる。そうなんだろう。衣食住に困ったことも、女の子に困ったこともない。綺麗な顔をしてるねと何度も言われてきた。
実家で出されるやたら凝った食事は全くおいしく感じないし、父も母も自分の好きなことしか話さなくてなんだか居心地が悪い。寄ってくる女の子はみんな顔だけが目当てで、俺が何考えてるかなんてどうでもいい。付き合い始めて精神的に病んでることがわかるのも珍しくない。
恵まれているのに贅沢なんだろう。
そう、贅沢なんだ。話していて楽しい相手と、のんびり過ごせる家で、よれた格好して、好きなものを食べたい、そんな望みは。
山内さんと接点がないのなら、作るしかない。思いつくのは三つ。
共通の知り合い。
共通の授業。
図書館。
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