ユートピア Eutopia

11/12
前へ
/53ページ
次へ
 ◇◇◇◇◇ 「ボン」  俺が声を掛けると、優雅な足取りで黒猫がやってくる。  こいつは特定の銘柄のキャットフードしか食べない。それが一番安いやつなのがなんとも。最初に安いやつを与えたらガツガツ食べ、嬉しそうだったので、もっと喜ばせようとグレードを上げたら、食べなくなったのだ。逆はよく聞くのに。わがままなのか、B級グルメなのか。  ボンは図書館の裏にいた元野良猫だ。俺の側から離れなくなったので、大家さんに問い合わせ、飼っていいと承諾を得た。念願の猫と暮らすことができて、とても嬉しい。  一人暮らしなんだから猫を飼えると、なぜもっと早く思いつかなかったのだろう。ただ、もっと早く思いついていたらボンとは出会えなかったから、このタイミングでよかったのだと思う。  名前を決める時、有紗はボンジュールがいいと言った。呼ぶたびに挨拶するのも悪くないけど、いかんせん長い。正式名称はそれでいいから、愛称をボンにしようと提案した。そこらへんが落としどころかと思って。ボンと呼ぶと本猫がにゃあと鳴いた。吾輩は猫である。梵は宇宙の根本原理であり、(すべ)てだ。  ボンに無事食べさせたので、今度は人間の番。有紗を呼ぶ。今日の食事は出オチなので、一人で準備したのだ。
/53ページ

最初のコメントを投稿しよう!

97人が本棚に入れています
本棚に追加