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◇◇◇◇◇
「ボン」
俺が声を掛けると、優雅な足取りで黒猫がやってくる。
こいつは特定の銘柄のキャットフードしか食べない。それが一番安いやつなのがなんとも。最初に安いやつを与えたらガツガツ食べ、嬉しそうだったので、もっと喜ばせようとグレードを上げたら、食べなくなったのだ。逆はよく聞くのに。わがままなのか、B級グルメなのか。
ボンは図書館の裏にいた元野良猫だ。俺の側から離れなくなったので、大家さんに問い合わせ、飼っていいと承諾を得た。念願の猫と暮らすことができて、とても嬉しい。
一人暮らしなんだから猫を飼えると、なぜもっと早く思いつかなかったのだろう。ただ、もっと早く思いついていたらボンとは出会えなかったから、このタイミングでよかったのだと思う。
名前を決める時、有紗はボンジュールがいいと言った。呼ぶたびに挨拶するのも悪くないけど、いかんせん長い。正式名称はそれでいいから、愛称をボンにしようと提案した。そこらへんが落としどころかと思って。ボンと呼ぶと本猫がにゃあと鳴いた。吾輩は猫である。梵は宇宙の根本原理であり、凡てだ。
ボンに無事食べさせたので、今度は人間の番。有紗を呼ぶ。今日の食事は出オチなので、一人で準備したのだ。
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