ユートピア Eutopia

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「誕生日プレゼント、仕切りのあるプレート皿が二枚ほしいって、どうしてかと思ったら……」 「俺、盛り付けのセンスないから、ずっとやりたいと思ってた」  有紗が膝をバシバシ叩きながら大笑いする。  ディストピア飯。四角と錠剤とゼリーとペーストで構成された世界。世紀末を生き抜くための食べ物。  サンドイッチ用の食パンをトーストしたものと、スパムを薄く切って焼いたものと、野菜をみじん切りにしたポテトサラダと、野菜をみじん切りにしたコンソメスープ。デザートは四角く切った牛乳かんとラムネとウエハース。フードプロセッサー大活躍。 「味は、味はおいしい。下手に味がいいから、余計この殺伐とした感じが……」 「いかに無機質な盛り付けにするかを、極限まで工夫した」 「そこ、工夫のしどころじゃないから。ユウ、努力の方向性、間違ってるから」  そう言いつつ、有紗はとても嬉しそうに笑いながら、俺が作った料理を食べる。  今度は大根サラダでジェンガか、ダムカレーか、バケツでプリンか、そこらへんを作ってみよう。  そんなことを考えていると、ボンが俺の脚にすりよってくる。平和な休日。  有紗は俺をユウと呼ぶようになった。そう呼ばれるのが好きだ。  事典で何度も調べたはずのutopiaの項。「よい」「素晴らしい」という意味の接頭語euと掛けてEutopiaと綴ることもあると終わりの方に書かれていた。  結局、人は信じたいことしか聞かないし、見ようとしないのだ。答が最初から目の前にあったとしても。  有紗がリセットしないと選択してから、俺達は夜通しくだらない話をしたり、昼間からばかげたことをするようになった。そんな間違いだらけの時間が、たまらなく愛おしい。先はわからないし、有限だからこそ、美しく輝いている。  全てを正しく選択できる理想的な場所は存在しないんだろう。  けれども。いつ終わってもおかしくない、間違いだらけのこの世界は。  他にはどこにもない、素晴らしい場所。
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