猫のような生き物

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 ほら、おいで、食べてもいいよ。  そう言って手を伸ばしながら、その猫のような生き物に、ゆっくりと近づいていく。その生き物は、警戒するようにこちらを見ている。  あと少し、と思ったけれど、その直後、その生き物は、背を向けて逃げ出した。もう、と頭の中で呻いて、私はその生き物を追いかける。  あの生き物に、食べさせたいのだ。それなのに、なかなかうまくいかない。逃げていくその生き物を追いかけながら、もう諦めようか、という考えが頭に浮かんだ。追いかけたって無駄だ。これまでにも何度か試してみたけれど、うまくいかない。もっと別の方法を考えた方がいいのかもしれない。  そう思って立ち止まる。そうして、ふと、その生き物が、こちらを向いていることに気づいた。これまでも、そうだった。近づくと逃げるのに、追いかけるのをやめると、逃げるのをやめてこちらを見る。なんだか馬鹿にされているように感じていたのだけれど。  ふと、もしかして、待っているのではないか、と気づいた。馬鹿にしてこちらを見ているのではなく、ついて来いと言っているのではないか。もしそうなのだとしたら。  私は再び、その生き物を追いかけてみた。その生き物は、また逃げていく。でも、追いかけているうちに、その生き物が、こちらの速さに合わせて逃げていることに気づいた。こちらが追いかける速度を緩めると、その生き物も、ゆっくりと逃げるのだ。やはり、私をどこかに誘導しようとしているのだ。  見失わないように気をつけながら、私はその生き物を追いかけた。大きさは猫と同じくらいなうえに、周りは少しずつ暗くなってくる。気を付けないと、見失ってしまう。そしてそうして追いかけているうちに、いつの間にか私は知らないところに来てしまっているようだった。少し心配になったけれど、でも周りを見回している余裕はない。ひたすら私は、その生き物を追いかけ続けた。  そうして、その生き物は、近づいても逃げなくなった。ここが目的地だということのだろうか。もしかして、あの生き物の仲間が、この辺りにいて、食べるものを求めて待っている、ということなのだろうか。  その予感は、的中していたようだった。その生き物まであと2メートルほどのところまで近づいたとき、突然、気配を感じた。周りから、その生き物の仲間がたくさん現れたのだ。きっと、私は襲われる。そう感じた。身体が緊張で固くなる。  けれど。
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