猫のような生き物

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 私は、喜びを感じていた。空を見上げる。荒廃したこの世界の中で、空だけはまだ綺麗だった。  そう、地球は、荒廃してしまった。大きな戦争が起こり、ほとんど壊滅してしまった。それでも、生き残っている人たちはいた。皆で協力して、生きていこうとしていた。それなのに。放射能の影響なのか、何なのかよく判らないけれど、凶暴な生き物が生まれたのだ。それは、姿は猫のようにかわいいのに、人を食べる、というより、生きた人間しか食べないという、恐ろしい生き物だった。  この生き物を壊滅させるために、生き残った皆で出した結論は、体に毒を塗った人間を生贄にする、ということだった。もっといい方法がありそうなものだけれど、兵器などは使えなくなってしまっていて、使えるものが毒しかなかったのだ。もちろん、この生き物たちが毒を食べるように仕向けようとは何度もした。けれど、無理だった。だから、こういう結論に至ったのだ。  この毒がこの生き物たちに効くのかどうかはまだ分からない。だから、一匹だけでも、効くかどうか試すつもりだった。うまくいけば、一部を食べられても、逃げることはできる。ただ、その場合、それをきっかけに、生き物たちが毒を警戒するようになるかもしれないという恐れはあった。だから、この状況は、最善なのだ。もし毒が効けば、この生き物たちをまとめて多く殺すことができる。  私は、過去のことを思い出す。私はとても幸せな家庭に生まれた。家族も友人も、皆大切な人だった。けれど、皆いなくなってしまった。だからもう心残りはないし、むしろ早くみんなの元に行きたいと思っている。どうせなら、最後に人々の役に立ちたい。そう思って、生贄に立候補したのだ。  足元に鋭い痛みを感じて、私は思わず倒れた。生き物たちが私によってくる。とても痛かったけれど、もうすぐ大切な人たちに会えるのだと思い、私は穏やかな気持ちになっていた。
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