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彼女はいつもの駅でいつもの電車を待っていた。五月半ばの暖かい日だった。電車がきた。
あの電車……。
いつもの電車ではなかった。記憶が甦ってきた。子供の頃に一度乗ったことがあった。電車は駅に停車した。ドアが開いた。誰も降りなかった。誰も乗らなかった。行先標には「普通、O宮」とあった。このあたりにO宮なんていう駅はなかった。あの日と同じだった。
ドアは開いている。でも乗る理由はない。でもドアは開いている。でも乗る理由はない。乗るべきか。乗らざるべきか。
あの日は思わず乗ってしまった。そして電車の中で男の子と出会った。彼との不思議な冒険の記憶が、走馬灯のように浮かんでは消えた。あの日も五月半ばの暖かい日だった。
迷っているうちに、ドアが閉じた。電車が発車した。ホームに青い鳥が舞い降り、飛び立った。そこに青年が立っていた。彼は狐に化かされたような顔で、きょろきょろ、そわそわしていた。
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