第二話 放課後のチャイムが鳴って   僕はまた取り残される空のまぎわに

7/9
前へ
/54ページ
次へ
▼  名前を呼ばれても、ボクはその子にまったく見覚えがなかった。 (えっと、どこかで会ったっけ……)  一瞬そう思ったけど、そんなはずはないと気づく。その子はにらみつけるように、まっすぐボクを見据えていた。まるで狙いを定めるように。 「ここにあなたがいるってことは、岬さんを知ってますよね?」  独断的な口調だった。肩先で切りそろえられた髪が揺れる。何を言われたか、よく分からなかった。こめかみにまた汗がにじむ。もう暑さのせいじゃなかった。  この子は知ってるんだ、と思った。事故で亡くなった子のことも。 (彼女の友達かもしれない)  そう思ったのは、目の前の少女が彼女と同じくらいの年齢に見えたからだった。およそ高校生くらいの。  ――もう、ここには来ないでほしい。  そんなふうに言われるんだろうか。そんな予感が働いた。胸の奥に痛みが走る。その少女は、ボクを見据えたままつぶやいた。 「協力してほしいことがあるの」 「協力?」  思わぬ言葉に絶句する。予想外の言葉だった。 「ちょっと時間いい?」  そう言って、少女は先にスタスタ歩いて行ってしまう。墓地の道路沿いにはファミリーレストランがあって、振りむかずそこに入っていく。あわててボクも後を追う。気づけば、窓際の席でその子と向かいあっていた。
/54ページ

最初のコメントを投稿しよう!

37人が本棚に入れています
本棚に追加