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名前を呼ばれても、ボクはその子にまったく見覚えがなかった。
(えっと、どこかで会ったっけ……)
一瞬そう思ったけど、そんなはずはないと気づく。その子はにらみつけるように、まっすぐボクを見据えていた。まるで狙いを定めるように。
「ここにあなたがいるってことは、岬さんを知ってますよね?」
独断的な口調だった。肩先で切りそろえられた髪が揺れる。何を言われたか、よく分からなかった。こめかみにまた汗がにじむ。もう暑さのせいじゃなかった。
この子は知ってるんだ、と思った。事故で亡くなった子のことも。
(彼女の友達かもしれない)
そう思ったのは、目の前の少女が彼女と同じくらいの年齢に見えたからだった。およそ高校生くらいの。
――もう、ここには来ないでほしい。
そんなふうに言われるんだろうか。そんな予感が働いた。胸の奥に痛みが走る。その少女は、ボクを見据えたままつぶやいた。
「協力してほしいことがあるの」
「協力?」
思わぬ言葉に絶句する。予想外の言葉だった。
「ちょっと時間いい?」
そう言って、少女は先にスタスタ歩いて行ってしまう。墓地の道路沿いにはファミリーレストランがあって、振りむかずそこに入っていく。あわててボクも後を追う。気づけば、窓際の席でその子と向かいあっていた。
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