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「あたし、日向乃々花」
少女はいきなり、そう名乗った。
「無茶なお願いだって分かってるけど、どうしても知りたくて……」
言葉をつまらせる少女を前に、ボクはその要求に応えることを心に決めた。それがボクの最後の義務のような気がしたからだ。何の手がかりもないのに、その場所が分かるとは思えない。でも、今はとにかくベストを尽くしたいと思った。アイスコーヒーをまた飲みこむ。彼女の知りたいことが分かれば、ボクが自分にかけた呪いも少しは薄まるんだろうか。そんな想像を一瞬する。でも、今はそんなことどちらでもいい気持ちだった。
ボクが承諾すると、日向という少女はホッとしたように顔をゆるめた。
「ええと、それで君はなんでボクのことを知ってるの?」
やっと最初に聞きたかった質問までたどりつく。少女は「ああ」と吐息をたてるような声をだす。
「日記に書いてあったから」
胸が刺し貫かれるようだった。
日記に書いてあった? ボクが?
「渡谷くんもあたしと同じ高校生くらいだよね? 学校は行ってないみたいだけど」
「そうだよ。ひきこもりってやつ」
自嘲気味にボクはこたえる。
「じゃあ、なんで外にいたの?」
「月命日だったから」
八月三十日。
彼女がたどり着きたくても、たどり着けなかった場所。ボクはそれを何とかして、探しあてなければいけない。なぜか急にそう思う。
「彼女が行きそうだった場所の目星とかってあるの」
日向さんが席を立ってしまう前にそう聞いた。
何も手がかりがないと、探し始めることすらできない。ボクの言葉に、日向さんは首を横に振るだけだった。
「咲耶岬さんのことは、ほとんど何も知らないんだ」
え、と思わず声がもれる。
頭のなかが混乱する。そんなボクを置きざりにして、日向さんは話を進める。
「岬さんはその日、ひとりの男の子と出かける約束をしていた」
「ひとりの男の子」と口のなかで反芻する。胸の奥が鈍く痛む。
「そう」と強く応える声。
「あたし、その子のために同じ場所に行きたいの」
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