第二話 放課後のチャイムが鳴って   僕はまた取り残される空のまぎわに

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「あたし、日向(ひゅうが)乃々花(ののは)」  少女はいきなり、そう名乗った。 「無茶なお願いだって分かってるけど、どうしても知りたくて……」  言葉をつまらせる少女を前に、ボクはその要求に応えることを心に決めた。それがボクの最後の義務のような気がしたからだ。何の手がかりもないのに、その場所が分かるとは思えない。でも、今はとにかくベストを尽くしたいと思った。アイスコーヒーをまた飲みこむ。彼女の知りたいことが分かれば、ボクが自分にかけた呪いも少しは薄まるんだろうか。そんな想像を一瞬する。でも、今はそんなことどちらでもいい気持ちだった。  ボクが承諾すると、日向という少女はホッとしたように顔をゆるめた。 「ええと、それで君はなんでボクのことを知ってるの?」  やっと最初に聞きたかった質問までたどりつく。少女は「ああ」と吐息をたてるような声をだす。 「日記に書いてあったから」  胸が刺し貫かれるようだった。  日記に書いてあった? ボクが? 「渡谷くんもあたしと同じ高校生くらいだよね? 学校は行ってないみたいだけど」 「そうだよ。ひきこもりってやつ」  自嘲気味にボクはこたえる。 「じゃあ、なんで外にいたの?」 「月命日だったから」  八月三十日。  彼女がたどり着きたくても、たどり着けなかった場所。ボクはそれを何とかして、探しあてなければいけない。なぜか急にそう思う。 「彼女が行きそうだった場所の目星とかってあるの」  日向さんが席を立ってしまう前にそう聞いた。  何も手がかりがないと、探し始めることすらできない。ボクの言葉に、日向さんは首を横に振るだけだった。 「咲耶岬さんのことは、ほとんど何も知らないんだ」  え、と思わず声がもれる。  頭のなかが混乱する。そんなボクを置きざりにして、日向さんは話を進める。 「岬さんはその日、ひとりの男の子と出かける約束をしていた」 「ひとりの男の子」と口のなかで反芻する。胸の奥が鈍く痛む。 「そう」と強く応える声。 「あたし、その子のために同じ場所に行きたいの」
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