第三話「命って燃えるんだね」と言う君の線香花火のような傷痕

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◇ 「じゃあ、花火を一緒にしたいな」  次にどこに行きたい? と彼に問いかけられたとき、私はそう応えていた。なんだか夏らしいことを彼とふたりでしたかった。ずっとこの先も、何があっても覚えていることができるように。消えない記憶になるように。  カケルくんとふたりで出かけるようになってから、私は日記を書くようになった。書くのはホントにささやかな、何でもないようなことばかりだ。まず、初めて会った日のこと(これは回想みたいに書いた)、それからもう一度会ったこと(川辺で彼を待っていたこと)、連絡先を交換して、彼の名前を知ったこと。夏休み中、一緒にどこかへ出かける約束をしたこと。書き始めると、とまらなかった。次から次に言葉が出てきて、すぐに余白がなくなった。お世辞にも上手とは言えない、私の文字で埋まったノート。今まで、私の日々にはひとつの染みもなかったのに。「何にもない日」がこの先もずっと続くと思っていたのに。まるで彼の存在がひとつの起爆剤になって、次々に色んな感情が押しよせてくるようだった。もしも彼を失ったら、いったいどうなってしまうんだろう。失う前から私は、ただそれが怖かった。  たくさんの言葉で埋まったページ。  もし彼と会えなくなったら。連絡がつかなくなったら、何も書くことができなくなる。すでにそんな心配をしているのがおかしかった。彼とはただの友達だ。友達ですらないかもしれない。ただの知りあいレベルかも。かろうじて名前は知っていて、ライン交換をした知りあい。そう思うと、胸がきしんだ。そその痛みを振りきるように、ノートを言葉で埋めていく。ふと、このままじゃだめだと思った。今の私じゃ――学校にずっと行かないまま、働くわけでもなく過ごしている私のままじゃ、彼の友達にすらなれない。彼のそばにいたいなら、もし対等でいたいなら、私もそのための一歩を踏みださなければいけない、と。 もし彼を失って「何にもない日」が戻ってきたら、その喪失感には耐えられそうになかった。何もしない時間は、ある意味学校へ行くよりきつかった。自分の存在自体を呪いたくなる日々だった。  ――だから。  ピロンと通知音がする。スマートフォンを開かなくても、カケルくんだと分かっていた。
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