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思いがけず長びいたお墓参りの帰り、手元には日向さんから渡された一冊のノートがあった。咲耶岬の生前の日記。そんな大切なものをボクが所持してていいんだろうかと、恐れにも似た感情が押しよせる。でも一方で、これは向きあわなければいけない罪悪かもしれないと思う。彼女は死んだのだ。一年前の夏に。
咲耶岬との出会いをボクは思いだす。フリースクールにボクは通っていた。でも、そんなところに行ってどうなるんだって正直思ってた。ボクはこれ以上生きていたくなかった。そのうち前進するエネルギーは少しずつ枯渇して、一歩も前に進めなくなるだろう。まわりのボクを取りまく大人たちは、それが「正しくて良いこと」だと思ってるようだった。学校に馴染めなかったボクを、その正しさに押し戻そうとしているように見えた。
そしてある日、ボク以外にもそう思ってる子がいることを発見した。
それが、当時の咲耶岬だった。
フリースクールといっても、行く時間が決まってるわけじゃない。咲耶岬の出席率は、ボクとそんなに変わらなかったと思う。来たり来なかったり。でも、たまに目が合うと、彼女はふわりと微笑みかけてくれた。まるで親しい友達にするみたいに。ボクに対してそんなふうに笑いかけてくれる人は誰もいなかったのに。(本当に誰ひとり)
母親はいつも仕事で忙しそうだったし、(ボクがフリースクールにすら行けない日は容赦なく罵倒された)父親はボクの存在ごと無視してるようだった。彼女に笑いかけられた瞬間だけ、ボクはこの世に存在していると思えた。本当に言葉どおりに。
中学二年の春から学校に行けなくなったというのもボクと同じだった。クラスで標的にされ、イジメ(にあたるか分からない程度の)嫌がらせを常時受けていたということも。なんでそんなことを知ってるかといえば、彼女がそう話してくれたからだ。なんでこの場所に来ることになったのか。彼女はそう訊く代わりに、自分の話をボクにしてくれた。
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