第三話「命って燃えるんだね」と言う君の線香花火のような傷痕

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「中学に入って、だんだん自分の居場所がなくなっちゃったんだ。なんか私の存在自体、ないみたいになって。それから朝吐くようになっちゃって、どうしても行けなくて」  ボクと同じだ、とそのときは言えなかった。ボクの場合は頭痛だったけど、だいたい似たようなものだ。彼女が誰にも見せない弱さを見せてくれたことが、ボクには嬉しかった。それだけで正直、舞いあがっていた。ボクたちには、まわりの大人には分からない弱さがある。それが、それまでは疎ましくて仕方なかったのに、彼女と同じだと分かった途端、それはかけがえのない共通認識になった。その弱さを通じて、ずっと繋がりあえるような気がした。  そう思ってたのがボクだけだったと分かったのは、一年前の春だった。フリースクールで一緒の時間を過ごして、あっという間に夕方になって帰る時間になったとき、 「ボクは君が好きだよ」  と、気づけば言っていた。部屋のなかには誰もいなかった。魔が差したとしか思えないタイミングだった。彼女はみるみる赤くなって、失言だったかもしれないと思い始めた矢先、 「あの、ごめんなさい、私……」  泣きそうな顔でそう言って、部屋をとびだしていった。それから彼女は二度と、フリースクールに来なかった。フラれたんだ、と体が地中に沈みこみそうになりながら思った。ボクはただ、彼女に笑いかけてもらえたら、もうそれだけでよかったのに。  そして八月三十日、取り返しのつかないことをボクはした。 ――あたし、その子のために同じ場所に行きたいんです。  そう言いはなった言葉が、まだ頭に焼きついていた。その男の子は、相馬(そうま)翔というらしい。つまり、日向乃々花さんはその子のことが好きなんだろう。ふたりが行くはずだった場所を探しあてることがどうして彼のためになるのか、そこまでは聞きだせなかった。けっこう無謀なことを引き受けてしまったな、と思う。でも、引き受けてしまった以上、考えないわけにはいかない。さいわい時間はたくさんある。期限は約一カ月後。彼女が亡くなった当日に、日向乃々花さんは同じ場所に行きたいらしい。そのことに意味があるんだと。それがいったいなぜなのか、今は考えられなかった。
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