第一話 サイダーを分けあって飲む金曜日 君の名前を僕は知らない

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◇ 「君も学校をサボったの?」  そう尋ねられたとき、なんて答えようか迷った。私は学校に行ってない。中学二年生の春から、急に行けなくなったのだ。その後、一時はフリースクールみたいな場所に行っていた。学校に通えなくなった、さまざまな子が行くところ。最近は図書館にばかり行っている。大人みたいなふりをして。さすがにそれは無理があるけど。保護者が連れた子供でいるには、私はもう大きすぎる。私はまだ大人じゃないし、ましてや小さな子供でもない。十六歳という年齢は、何もかもが中途半端だ。でも、ずっと学校に行ってないのは事実だから、 「うん」ともう一度うなずいた。  きっと、この男の子は仲間を見つけたと思っているんだ。急に私はそう思う。学校のサボり仲間だと。そんな理由で、いきなり話しかけられたのかもと思う。ほんの薄く唇を噛む。たぶんそろそろ開館時間だ。私はそれ以上、その子に関わらないことに決めた。くるっとまわれ右をする。もしついてこられたら、どうしようかとドキドキした。彼はついてこなかった。そのことに少しホッとする。でも、どこかでそれを残念に思う自分もいる。  色んな感情が湧きあがって、どうすることもできなかった。たった二言、話しかけられたにすぎないのに、動揺している自分がいた。いつから私はこんなにも、ひとりになってしまったのだろう。歩いているあいだ、歩調にあわせて彼の言葉が反響した。  ――きれいだね、海。  なんで私は安易にうなずいてしまったんだろう。海をきれいに思ったことなんて一度もないはずなのに。歩くうちにそんな後悔も薄くなっていく。この出来事も砂の上の文字のように、いつか消えてしまうだろう。そう思っていたのに、ある図書館の帰り道、ふたたび彼に会うことになる。
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