第四話  遠くまで行くには翼が必要で 一番星には君の名前を

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 ずっと彼女に惹かれていた。なんで彼女にかまうかなんて、ただそれだけの理由だった。それなのに、はぐらかしていた。言ったら引かれると思ったから。でも、告白することで関係性が変わるなら、僕はそれに賭けたかった。フラれたら落ちこむだろうけど、また今までみたいに友達として付きあえばいい。告白なんて悪い冗談みたいに受け流して。  駅までは自転車で行くことにした。うだるような熱気は心なしかやわらいでいる。といっても、日が高くなればもっと暑くなるだろう。今日は黒いキャップを被っていくことにした。彼女はあの白い帽子を被ってくるだろうか、なんて頭の隅で考える。最初会った頃より、彼女はだいぶ女の子らしくなった。もしもそれが、僕と会うことによっての変化なら嬉しい。そんなの関係ないかもしれない。髪が伸びると、彼女はたとえズボンをはいても男の子には見えなかった。少し華奢で小柄な十代の女の子に見えた。自転車で駅まで向かいながら、もう夏も終わるんだな、なんてボンヤリ考えた。結局バイトばかりに明け暮れていたような気がする。八月いっぱいで辞めることを店長に伝えると、なまじ仕事ができるようになっていただけに惜しまれた。  この夏の一番の収穫は、働くことの大変さを身に沁みて知ったことだろう。それだけで前よりずっと、大人に近づけたような気がする。おかげで宿題は終わっていない。彼女に教えられるほど僕は勉学に励んでない。結局彼女に教えたのは、バイトを始める前のわずかな期間だけだった。そう思うと少し申し訳ない気持ちになる。中学の基礎ができていれば、きっと大丈夫なはずだ。数学は公式に沿って計算して解けばいいし、英語は文法を覚えればいい。覚えることがたくさんあって、これを頭に詰めこんで何になるんだと思うけど。それが学生の本分だ、なんて言われるだけだろう。
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