第四話  遠くまで行くには翼が必要で 一番星には君の名前を

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 きっと僕たちは自由になるために学校へ行って、色んな物事を覚えるんだろう。知識がなければ、どこへも行けない。自分が行きたい場所をいつか選びとるために、翼を手に入れるために、僕たちは延々と続くような今日という日を乗り越えていく。その一歩を踏みだすなら、やっぱり彼女と一緒がよかった。    待ちあわせの駅に着く。駅にたどり着くだけで、なんだか遠くへ行ける気がする。そんなの錯覚にすぎないけど。そう思えるだけで、心の底が浮きたっていく。待ちあわせの九時になっても、彼女は現れなかった。でも、その時点でも僕は何も思わなかった。三十分が経過すると、さすがに少し心配になった。スマホには何の連絡もない。寝坊したのかもしれないし、具合が悪いのかもしれない。日にちを間違えているのかもしれない。最後の可能性が一番高いような気がした。何の理由もなく、彼女がやって来ないとは思えなかった。  そこで僕はようやく、電話してみることにした。受話器のアイコンをタップする。コール音は長く続いた。そのままずっと鳴らしていいものかどうか迷うくらい。コール音は最終的に留守番電話に切り変わった。時間は十時を過ぎていた。人が行き交う駅前で、僕は立ちつくしていた。 (いったいどうしたんだろう)  得体のしれない不安が胸の内でふくらんでいく。なぜか、僕は既視感を覚える。これとまったく同じ場面を、前にも見たような気がするのだ。僕たちは夏休みの終わりに、一緒に出かける約束をする。でも、彼女は現れない。僕はずっと待ち続ける。彼女からの連絡はない。彼女に伝えたい言葉が、いくつも頭のなかをめぐる。僕は彼女に電話する。電話が繋がることはない。僕は彼女に何かあったのではと不安になる。 『大丈夫?』  そのメッセージを送ろうとした瞬間、彼女のアイコンが見えなくなる。  今までずっとスマホでやり取りしていたはずなのに、僕は彼女の名前を思いだせないことに気づく。
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