第五話「運命は残酷なのよ」「そうだね」と応える僕は君の棺に

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第五話「運命は残酷なのよ」「そうだね」と応える僕は君の棺に

◇  当日は快晴だった。とてもきれいに澄んだ青空。それだけで素敵な一日が約束されているようだった。――そのはずなのに、私は寝坊した。楽しみすぎて、前日よく眠れなかったのだ。まるで子供みたいだと思う。あわてて準備して家をでる。それでも走れば、待ちあわせの時間に間にあうはずだった。できれば遅れたりしたくない。彼を待たせたくはなかった。 (この日が終わったら)  走りながら考える。  夏休みが終わったら、もう会えなくなるだろう。ずっとそう覚悟していた。今日が終わってしまう前に、私はカケルくんにお礼を言うつもりだった。見つけてくれて、ありがとうって。彼がいてくれたから、最初の一歩を踏みだせた。こんな私でも――世界からドロップアウトしてしまった私でも、繋がってくれる人がいた。関わってくれる人がいた。会う約束が嬉しかった。カケルくんにとっては、ほんのささいなことでしかなくても。彼と会う約束が、私の生きる希望だった。でも、もうこんなに依存しているわけにはいかないから。  九月になったら、それぞれの日常に戻らなければいけない。カケルくんは学校に行くし、私は図書館で勉強する。出会う前と同じように。私は負担になりたくなかった。そう思われてしまう前に、ちゃんと気持ちを伝えたかった。 (好きって言ったら、迷惑かな)  きのうから何度もかけめぐる言葉が、また脳内を占拠する。迷惑かもしれない、と思う。それどころか引かれるかも。重いやつだと思われて、何も話せなくなるかもしれない。これだけ繋がってしまうと、会話できなくなるのはさみしかった。それは、想像すると手足がしびれるようなさみしさだった。でも、気持ちを伝えるなら、直接会って伝えたかった。その方がちゃんと生きている自分の言葉な気がしたから。スマホの画面で生みだされる、吹きだしの軽い言葉じゃなくて。  空が果てしなく青くて、こんなに青かったっけって見とれてしまうくらいだった。自転車を使えばよかったのに、そんな考えすら頭のなかに浮かばなかった。駅までの道のりを遠く感じた。急いでブローした髪も走ってくずれているだろう。走るたびに汗がにじむ。会う前から汗くさくなっちゃうなって心配になる。走るなんていったい何年ぶりか分からないほど、それほど久しぶりに感じた。走るのも花火もスマホでの会話も、図書館もたくさん交わした言葉も、そのどれもがかけがえのない私の宝物だった。涙がにじんでくるくらい、ただ好きになっていた。胸の痛みを覚えるたび、生きてる自分を実感した。そんなこと思うなんておかしい。一方で、本当に今までは何も感じずに生きていた。そのことをカケルくんと会うたびに思い知らされた。  もう少しで駅に着く。  点滅している信号のことなんて気にとめなかった。コンマ数秒間の空白。  すごい衝突音がして、私の意識は切り離される。
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