第一話 サイダーを分けあって飲む金曜日 君の名前を僕は知らない

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◆ 「君も学校をサボったの?」  僕がそう尋ねると、その子はずいぶんためらったのち、小さく「うん」とうなずいた。そしてその数秒後、まるで僕を見限るように背をむけてさっさと行ってしまった。話しかけられたのが不快だったのかもしれない。新手のナンパだと思われたかも。  その子が行ってしまって、僕は少しだけホッとした。それ以上何を話そうか、まったく分からなかったから。だったらいきなり話しかけるなよって話だけれど。いつのまにかこめかみに大量の汗をかいていた。このままこの場所にいたら、熱中症で倒れそうだ。あの子もそう思ったのかもしれない。こんなやつの相手をしてる場合じゃない、みたいな。高校生くらいに見えた。ふりむいたとき、なぜか泣いてるように見えて焦った。ほんの一瞬だけ見えた、遠くを見つめる横顔が目に焼きついて離れなかった。その日は結局、昼休みの時間にあわせて学校へ行った。一日サボろうと決めたのに優柔不断かよ、とあきれる。  彼女をふたたび目にしたのは、数日後の放課後だった。以前と同じかっこうをしているからすぐに分かった。白いキャップ、半袖のパーカー、擦りきれたジーンズにスニーカー。  やっぱり遠目からだと、どうしても男の子に見える。中学生くらいかもしれない。年下で中学くらいの、ボーイッシュな女の子。また話しかけたら、マジでヤバいやつ認定されるかもしれない。スマホで通報されるかも。SNSで拡散されたら、高校にもいられなくなる。そんな場面が一瞬頭のなかを駆けめぐって、そんな自分がおかしくなる。それでも、当たり前のように僕は話しかけていた。 「また会ったね」  その子は僕に気づくと、ビクッと体をふるわせた。お前マジいい加減にしろ、と僕のなかの僕が言う。怖がらせてどうするんだ。  彼女はまた赤い目をしていた。夏風邪をひいているのかもしれない。あるいは、またひとりでこっそり泣いていたのかもしれない。そんなときに、知らないやつにかまわれたくないだろう。でも、結局僕は彼女に話しかけてしまった。今度は暑さのせいじゃなかった。目が素通りできなかった。  彼女は逡巡したのちに、小さく「うん」とうなずいた。それ以外にどう言えばいいのか分からないように。いや、僕がこの子をただ困惑させているのだ。  そう思うとたまらなくなって、弁解するような気持ちでまた話しかけていた。 「サイダーあるけど、一緒に飲む?」
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