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◇
ハッと気づいたら、体が浮いていた。地面が遠く離れている。一瞬だけ、とても深く混乱する自分がいた。
(あれ、私なんでここに……)
真下に「私」が倒れている。救急車のサイレンの音。まるで水のなかみたいに、全部の風景がゆがんで見える。
(私……死んじゃったのかな……)
そう思っても、現実感がなかった。
嘘としか思えなかった。嘘だと思いたかった。だって、こんなにもあっけなく、すべてが終わるはずがない。これから色々始まるはずだったのだ。自分で決めて、やっと未来へ歩き始めていく途中だった。その道のりに、彼がいてくれた。私が初めて自分から好きになった男の子。物心ついたときから異性が怖かった。怖くて仕方なかった。だから、男の子みたいなかっこうばかりしていたのだ。もう恋愛なんて一生しないと思ってた。自分には無理だと思ってた。それを彼が――彼にむかう強い気持ちが変えてくれた。消えてしまいたかったのも、そうすれば過去の痛みから逃れられる気がしたから。でも、今はもう違う。何よりも生きたいと思ってる。それなのに。
(カケルくんに会わなくちゃ)
ただ、それだけを強く思った。約束の場所に行こう、と決める。そこに彼はいるはずだから。どれだけ時間がかかっても、何年先になっても彼を待ち続けていよう、と。
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