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遺影は生前の彼女そのままだった。一年ぶりにしっかり顔を見て、ぬぐえない罪悪感で胃がしぼられるようにキリキリ痛みだす。
やっぱり、のこのこついてくるんじゃなかった。そう後悔したところで、
「この前も、女の子がひとり訪ねてくれたのよ」と、その人はフッと告げた。
「そのときに岬の日記を手渡したんだけど、無事に見せてもらえたか気になってるの」
彼女の日記は今、ボクの手元にあった。
でも、とてもそんなこと言いだせない。
『これを手に入れたのは偶然だった』
最初に会ったあの日、そう言った日向さんの声が脳裏によみがえる。
彼女もここを訪ねてきてたのだ。こんなにあっさり招き入れられたのは、これが二回目だからなのかもしれない。誰に見せる予定なのかは訊かなくても分かった。
相馬翔のことだ。ふたりは恋人同士だったのかもしれない。そう思うと、複雑な思いがねじれて渦巻いた。
「事故があった日、岬さんはどこに行こうとしていたんですか?」
訊きたかったことを、ボクは単刀直入に尋ねることにした。
「残念だけど、どこに行こうとしたかは分からないの。同じことをその子にも訊かれたわ」
(もう質問済みだったのか)
わずかに落胆しつつ、それはそうだろうと冷静な気持ちで思う。分からなかったから、ボクまで巻きこんだのだ。
「あの、ご迷惑じゃなければ、彼女の部屋を見せてもらえませんか」
踏みこんだ質問だと自分でも分かっていた。でも、ここで何か手がかりを見つけなければと思う気持ちもあった。
ここであきらめたら、もう何も見つけることはできないだろう。
「彼女があの日、どこへ行こうとしたか知りたいんです」
重ねてそう告げる。
それがボクにできる最後のことだと思ったから。
「娘の部屋はまだ前のままにしてあるの」
その人はそう言って微笑んだ。
泣きそうな表情がどうしようもなく、あの日の彼女に似ていると思った。
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