第五話「運命は残酷なのよ」「そうだね」と応える僕は君の棺に

9/16
前へ
/54ページ
次へ
* 七月月二十日  海を見てたら、ひとりの男の子に会った。いきなり話しかけられて、びっくりして逃げちゃった。誰かと話をするのは、フリースクールで稔くんと話したとき以来かもしれない。 七月二十三日  図書館に行った帰り道、また男の子に会った。サイダーを分けあって飲むなんて、初めてでちょっと緊張した。 七月二十五日  川辺で待ってたら、また会えた。嘘みたい。彼に連絡先を訊かれた。断る間もなくうなずいてしまった。彼の名前は「カケル」っていうらしい。岬って名前、変に思われなかったかな。そんなことばかり、なんか気になる。 七月二十六日  さっそく連絡がくる。話し相手がいるだけで、なんだか胸がくすぐったい。 七月三十日  夏休み中もカケルくんと、ときどき会うことになった。そんなの信じられないけど、本当のこと。「じゃあ、また八月に」ってカケルくんと約束する。 八月五日  バタバタしてて日記が書けなかった。いつも退屈で時間を持て余してばかりなのに。忙しいなんてすごく不思議。カケルくんのおかげだと思う。いつもの図書館に行って、次は花火をすることにした。一緒にいると楽しいけど、このままじゃだめだって初めて思った。少しでも前に進まなきゃって。 八月八日  通信制の高校を受けることにした。我ながらすごい決心だと思う。カケルくんは応援してくれた。勉強を教えてもらいたくて、ずうずうしいけどお願いしてしまう。なんか一緒にいる理由ができたみたいで嬉しくなる。お母さんに話したら「よかった」って泣かれちゃった。 八月十日  花火の日はワンピースにした。いつも男の子っぽい格好をしてたから、変じゃないかすごく気になった。花火、本当に久しぶりだった。たくさんの花火を分けあうのも。少しだけ父親のことを話す。親が離婚する前のこと。もう思いだしたくない。重い話なんてしたくなかったのに、気づけば喋ってた。退屈させちゃったかな。なんでも話したいって思ってしまう自分がいる。 八月十五日  夏休みの終わりにどこか遠くに行きたい。そうカケルくんに告げる。それまでは勉強に専念する。願いごと、何にしようかな。  
/54ページ

最初のコメントを投稿しよう!

37人が本棚に入れています
本棚に追加