第二話 放課後のチャイムが鳴って   僕はまた取り残される空のまぎわに

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◆  川べりに佇んでいる彼女は、まるで最初から僕を待ってくれているようだった。そんなのは僕の勝手な妄想にすぎないのだけれど。前と同じ白いキャップを被っているからすぐ分かる。やっぱり遠目からだと男の子に見えてしまう。そのおかげで、僕はうっかりと言える軽薄さで話しかけてしまったのだ。あのときは、なんとなく誰かと話をしたい気分だった。漂流してる途中で見かけたイカダにつかまりたくなるみたいに。 (たぶん迷惑だっただろう)  でも、この前の彼女はあまり迷惑そうには見えなかった。その記憶は都合よく改ざんされてる気もするけど。 「散歩中?」  僕は気づけばそう言って、彼女の隣に立っていた。かたわらにいる彼女が、ますます目をまるくする。  またあなた? みたいな目だ。彼女は頬を紅潮させて、うなずく代わりにつぶやいた。 「図書館からの、帰り道」  図書館なんて、僕は一度も行ったことがない。もしかしたらあの日も、この前も、その前に会った日も、彼女は図書館にいたのかもしれない。なんとなくそんな気がしていた。  数回会っただけなのに、初めて会った気がしない。そんなことを不意に思った。それは言葉にしてしまえば、陳腐な常套句みたいだった。でも、現にそう思うのだから仕方ない。 「今日から夏休み?」  彼女はそう言いあてた。  今度は僕がうなずく番だ。  うっかり「君も?」と言いそうになる。たぶん、彼女は初めから学校には通っていない。最初も、この前も私服だった。その事情を察することくらいはもうできる。  僕は彼女が孤立して見えたわけが分かった気がした。彼女は初めからひとりきりで、ひとりにしかなれなくて、だからこそとても際立って見える。境界の外側にいるみたいに。みんなが当たり前に属している組織から――「学校」という世界からポツンと離れているから、とても寄る辺なく見えるのだ。そして、その佇まいがいつも僕をひきつける。 「あのさ、もしよかったら」  数秒の沈黙の後、先に口を開いたのは僕の方だった。  もしよかったら。  その先を言おうか少し迷う。  けれど、結局言ってしまう。 「連絡先、教えてよ」  僕はなぜか、この女の子に惹かれている。理由はまだ分からない。でも、僕のなかに確信めいた何かがあって、今はひとまずそれに従おうと決めていた。彼女はもう一度目を見開く。そして、コクッとうなずいた。  
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