「閉鎖病棟に入院した日」

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ハンドルを握るのも、精一杯だった。右肘の激痛で何度も呻いて、前を走る車に「早く行けよ!」と車内の中で怒鳴りつけながら一心に呪っていた。赤になる信号も、歩く人も、車の排気音も全てがイライラした。お前達はいいな、自分のスピードで動けて。こっちはもう死にそうなんだよ辛いんだよ、何もかもがもう嫌なんだよ、疲れ切っているんだよ。息をするだけでもどれほどの力が要ると思う? ぬくぬくしやがって!平気な顔しやがって!殺せる力があるなら殺してやりたい!病院にただ走り続けながら神経がぎりぎりまで張りつめていた。ぶちんと切れたら、何をするか分からない。切れるな切れるな!堪えるように思いながら、車の速度は80を振り切っていた。 病院の入り口が見えた時、出ようとした車に激突する寸前でぎりぎりの所ですり抜けて、死んでしまっても本当におかしくなかった。 よろよろになりながら、車から降りて受付して、待合室にベンチに座りながら右肘をたださすっていた。 痛みは全然引かなくて、まるで骨折でもしたようだった。泣きそうになりながら、看護師さん!とただ呼んだ。 「ベットで寝かせてください。待合室でもう待ってられないんです。痛くて死にそうなんです。」 かかりつけの病院で、看護師さんも私の病気をよく知っていたから、すぐにベットに連れていってくれた。 看護師さんに介助してもらいながら、ベットにようやく横になれてほっとしながら、ああ、もう駄目だなと思った。多分私が行きつくのは精神病棟だろう。いつ出れるかも分からない。永遠に出れないかもしれないと思ったら、ただ呻くように泣いてた。仕切りのカーテンの色を今でも覚えている。 淡い色褪せたベージュの色だった。ゆらゆらと揺れてて、それだけをただ見つめていた。 …さん。自分の名前をすぐに呼ばれて、看護師さんが開けますよとカーテンを静かに開いた。 「もう診察が出来ますから。介助は必要ですか?」…お願いします。と掠れそうな声で言った。 私よりも二回りも上の人の肩を借りながら、何度もすいません、すいません、すいませんと謝った。 「大丈夫、大丈夫ですから。ゆっくりいきましょう。傍に居ますからね。大丈夫ですよ。」 その人はいつも優しかったけど、その時は「特別」優しかった。私が異常な状態である事を察していたと思う。診察室に着いて、椅子に座って。主治医の先生に「どうかしたの?」と聞かれた。
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