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目覚めた時はもう夕方で、「…さん、起きれますか?夕食に来れそうなら食堂に来てください」と部屋の中にアナウンスが響いた。寝れたせいか、気分は幾らかマシだった。
右肘の激痛は相変わらずだったけど、どうにかドアノブを握れた。ドアには鍵が最初からついてなくて、ただ開けて閉めるだけのものになっていた。よく見るとドアの真ん中に透明な硝子が長方形に嵌め込まれていて。ああ、これで変な事しないか看護師がチェックが出来るんだなと思った。
…食堂に行くのは怖いな。どんな人が居るのか怖い。でも行かないといけないんだろうな。
嫌々思いながら帽子を被ったまま、右肘をさすりながら、カクンカクンと糸の切れたマリオネットみたいに不器用に歩きながら、着いた。皆もう席に着いていた。お婆ちゃんしか居なかった。
「…さんの席はここですよ。今から食事を配膳しますからね。」
看護師さんに言われて、席に着いた。テレビの前の席だった。同じテーブルのお婆ちゃんは車椅子にほとんど座っていて、私をじっと見てくる事もなく、ただ静かに食事の配膳を待っていた。
首からエプロンを掛けていて、綺麗な花柄や柄物が見えて、老人ホームのように一瞬見えた。
「…さんの食事です。どうぞ。」
配膳車に入っていたトレイを目の前に置かれた。テーブルには、私の名前が白いテープで黒く印字されていた。食事の内容は昼と少し違うだけで、作業のようにただ胃袋に流し込んだ。
お婆ちゃん達はゆっくりと食べていて、時折箸から食べこぼして、エプロンに沁みがついていた。
「こりゃ毒だから食わん!食わんちゃ!いや、いや!毒は食わん…!」
怒鳴るお婆ちゃんの声が聞えて来た時、びくりと思わず肩が跳ねた。ナースステーションの近くで車椅子に座りながら、看護師さんに食事介助されてた。
「ほら、皆と同じものだよ。毒なんて入ってないでしょう。だから、食べようね。」
宥めるように看護師さんが言って、口に運べば恐ろしいものが目の前にあるように、お婆ちゃんは目を見開ていた。いや、いやいや。のけぞるように身体を逸らしながら、食べ物から逃げていた。
口に入れたら死んでしまう、誰か助けて。白髪の長い髪を何度もふり乱しながら。助けを求める眼を皆に向けていた。皆無言で食事していて、知らんぷりしてて。私はただ居心地が悪かった。
…食器、どう片付けるんだろう、早く誰か食べ終わらないかな。俯きながら動き出すのを待っていれば、お婆ちゃんが数人立ってトレイを持って立ち上がったから、どうするか見ていた。
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