先輩、待ってください

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「次は女子校前、女子校前です。神光クリニックはこちらでお降りください」  ひとつ前のシートに座っている女子高生が、降車ボタンを押そうとしているのが目に入った。  路線バスは郊外に向かっている。車内は空いていて、和也と同じ高校の制服の学生とそうでない学生が、ひとりふたりでぽつりと乗っていた。女子高生は後者の方だった。女子校に通う姉と同じ制服で、和也が通う進学校の制服とは明らかに違ったからだ。違うといえば、和也の制服はブレザーで、男子校の学生服ではないことを意識している。そんな和也が車窓の外に目を移し、流れ行く景色を眺めながら小さなため息をついた。  高校に通いだしてからそろそろ丸一ヶ月になろうというのに、今の生活はちっとも楽しくない。少しばかり偏差値が良かったせいで、中学時代の担任から「進学に有利だから」と今の高校を勧められたけれど、仲の良かった友人たちはこぞって男子校に入学してしまい、今ではたまに会うぐらいのもので、つい最近までの「気楽な関係」とはいえなくなってしまった。連休中にみんなで遊びに行っても、ちょっとしたことで話題の「ズレ」が生じてしまい、それがまた独りよがりな疎外感を生み出してしまう。その繰り返し。悪循環だ。  今の和也は、もう彼らと会うことさえ、億劫になりつつある。  入学したばかりのころは、自分がこんなふうになるなんて、それこそ夢にも思っていなかった。  のんびりした走りのバスは、やがて「女子校前」バス停に停車した。窓際のシートにいた女子高生が、さりげなく左耳に髪をかけると、隠れていた耳元がチラッと見えた。それだけならまだよかった。それだけなら――  
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