プロローグ

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★  古美術商の次男、ダスラは幼い頃から自由奔放に生きてきた。  悪行に興味があったのか、あるいは困難がダスラを呼び込むのか、いずれにせよダスラの人生は破天荒であった。まがいものの密輸酒を売る酒屋で飲んで、一時生死を彷徨い、生還後にその店をショベルカーで潰した。街中で喧嘩をふっかけてきたマフィアを返り討ちにして足腰立たなくさせ、命を狙われたこともあった。親から無心した金で各国を放浪し、生きているのか死んでいるのかわからない時期もあった。  一方で兄のナーサティヤは父の期待を背負い、勉学にいそしみ一流の大学を卒業した。  大学時代は考古学を専攻し、卒業後は研究を重ね、学位も取得した。その後、インド政府のお抱え企業で外交を学び数多の大企業とコネクションを持つことに成功した。そして神への祈りを決して欠かすことがない、敬虔なヒンドゥー教徒でもあった。  だから父が長男のナーサティヤを跡取りに決めたのは運命の綾ではなかった。  だが、ダスラは道を失ったのではない。ただ、道なき道を探していたにすぎない。
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