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幸せガールと雨合羽
「雨降ってくんないかな、マジで」
「は?」
突然何を言い出すのか。あまりに唐突で、私は思わず変な声を出してしまった。
現在地は、私達が通う大学近くのカフェ。
私の目の前にいるのは、同じ大学に通う友人の瑛南。ちなみに、私とは高校時代からの付き合いである。お互い誘い合わせて同じ大学を受験し、進学したというわけだ。どっちも文系女子で、得意科目ややりたいことが似通っていたというのもあるのだが。
「話がまったく見えないよ。確かに、今年は梅雨入りが遅れてるっぽいかんじではあるけどさ。何がどうした、唐突に」
私が尋ねると、瑛南は長い前髪の下から恨めしそうな視線でこちらを見て来た。いつも思うが、もう少し短くした方がいいのではなかろうか。結構可愛い顔をしているのに台無しだ。せっかく肌が綺麗なのだから、いっそオデコをどどーんと出してしまってもいいと思うのに。
長髪もあいまって、俯くとすっかりサダコ状態である。彼女は昔からそうなのだった。別に暗い性格というわけでもないのに、自分の容姿に関してはとことん自信がないのである。
「……さっちゃんにはさ、話したよな?うちの吹奏楽サークルでさ、よその大学と合同飲み会やった話」
「ああ、うん。コンサートの後にいつも飲み会やるのが恒例なんでしょ?あ、最近はコールとかされてないよね?無理に一気飲みとかないよね?そういうのは絶対断らないとダメだよ?瑛南あんまお酒強くないの、私知ってるんだからね?」
「そ、それは大丈夫。最近は、そういうのやらせちゃいけない、って空気になりつつあるし。つか、そういう話じゃなくてさ……」
コンサートが終わると、打ち上げで飲み会をするという音楽系サークルは少なくないはず。知っていたので、私はついつい釘を刺してしまった。過保護だとわかってはいるが、どうにも瑛南は昔っから危なっかしいのだ。ナンパされていると気づかずに危なそうな男の人にほいほいついていってしまい、慌てて救出したことも何度かあるくらい。
ましてや、瑛南の二十歳の誕生日に二人で居酒屋に行った時の惨事を私は忘れていないのである。加減が飲み過ぎて沈没した彼女をなだめすかし、お金を立て替えてタクシーに押し込んだ時の苦労といったら!
「結論を言うと、その飲み会でさ。よその大学の男の人と、知り合って」
ぼそぼそぼそ、と不安げに喋る瑛南。
「アタシ、その人と……今度デートすることになったんだ、けど」
「ワッツ!?」
なんてこった。
私は思わず、椅子を蹴る勢いで立ち上がってしまったのだった。
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