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「いや、その、そこは自覚してくれてるならいいけど……」
「大丈夫、相手の人、悪い人じゃねーって。つか、うちのパートリーダーの……春日部先輩の友達なんだ。先輩がさ、飲み会の席でアタシに紹介してくれて。話してみたら、ちょっと草食系だけど、気が利くいい人だったよ」
「……ふうん?」
少しだけ意外に思った。というのも、瑛南は以前男性の好みのタイプを“男らしくて積極的な人”だと語っていた記憶があるからだ。
受け身なタイプ、特に一般的に草食系と呼ばれる系統は地雷なのかと考えていたのに。
「自分が飲み食いするより、みんなの注文積極的に聞いて回っててさ。でもって……ものすごい、聞き上手っていうか。お酒の席だし、アタシもちょっとだけ飲んで酔ってたから結構愚痴っちゃったんだけど……そういうのも嫌がらずに聞いてくれて。特に、アタシ大学から吹奏楽始めたもんだから、二年生になった今でも全然上手くなくてさ。それで悩んでるって言ったら、すごく丁寧にアドバイスしてくれて」
俯くと、可愛い顔の半分が前髪で隠れてしまう瑛南。でも、その顔の下半分でも十分だった。
桜色に染まるほっぺ。嬉しそうにほころんだ口元。
彼女は、恋をしている。
「好きになっちゃったんだ?」
私がストレートに尋ねれば、瑛南は恥ずかしそうにこくり、と頷いた。
「イケメンだったってのもあるけど、何より……辛い時、傍にいてくれそうなタイプというか。一緒にいてすごく安心できそうな人だなっていうか。そしたら、先輩がこう、間を取り持ってくれて……つ、次の日曜日、デートしようってなったんだけど。すごく楽しみなんだけど、その」
「ど?」
「……雨降ってくれないかなあって」
「マテマテマテマテ。話がまったく繋がらないのですが!?」
楽しみなデートなのに、雨に降られたいとはどういうことか。混乱する私に、彼女はさらに体を小さく縮こませて言う。
「あ、アタシのこの通りブスだからさ!居酒屋は結構暗かったし、そこそこ化粧もしてたし、お酒パワーもあったから誤魔化せたと思うんだけど……明るいところでデートなんかしたら一発で嫌われちまうんだって、絶対!だ、だから雨降ってほしいんだよ。今度のデート、動物園の予定だから、ほ、ほぼ屋外にいるわけ!屋外なら、カッパ着て歩けば顔も隠しやすいし、ご、誤魔化しもきくじゃん!か、傘もさすし、さ!だ、だから雨降ってくれたら、気楽にデートできるのになって思っ、て……」
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