幸せガールと雨合羽

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「あんたねえ……どんだけ自信ないの。ていうか動物園?随分可愛いデート先ね」 「ど、動物が好きだって話で盛り上がったら。か、彼がじゃあタマ動物園に行こうって……」 「あー……」  ようやく、事情は見えてきた。つまり彼女は、デートそのものはものすごく楽しみにしているし、相手の男性にも好意を持っているが――だからこそ、顔のせいで嫌われるのが怖いというわけだ。雨が降ってくれれば雨具でいろいろなことが誤魔化せそうだからそうしてほしい、と。  私は呆れてしまった。  彼女が顔に自信がない理由の一つが、小学生の時に男子に虐められたからだと聞いているが。恐らくそれも、彼女がかわいいから、男どもが素直になれずにブスブス連呼していたというのが真相ではなかろうか。 無論、その場に私がいたら奴らを軒並みぶっ飛ばしてやったところではあるが、小学生の悪ガキが気になる女の子に素直になれないなんて珍しいことではないのである。それを、額面通りに受け取って自分をブスだと思い込む必要はまったくないはずなのだが。  雨具を着ていれば顔も誤魔化せるから雨が降ってほしい、などと。なんとも斜め上にかっとんだ発想である。いや、変わり者の瑛南らしいと言えばらしいのかもしれないが。 「あのさあ。動物園にだって、屋内施設はあるんだよ?ずーっと傘さして雨合羽着てるなんて無理だって。レストランは?水族館エリアは?」 「う」  そこまで考えが至らなかったらしい。瑛南は露骨に口ごもった。そう、確かに雨合羽のフードを被って傘をさしてしまえば、外ではあまり顔が見えないかもしれないが。いくら顔を見せたくないからといって、屋内でその恰好のままでいるのは非常識がすぎるというものである。 「私は瑛南は凄く可愛いと思う。もっと顔に自信を持ってもいいって。前髪も切っていいし、なんならオデコ出してもむしろもっと可愛くなるくらいだと思う。……どうせ、私がそう言っても信じてくれないんだろうけどさ」 「し、信じるとかじゃなくて。さっちゃん、アタシにめっちゃ甘いし優しいんだもん。アタシがブスだったとしても、絶対ブスだなんて言わないじゃん?だからさあ……」 「じゃあ、瑛南が好きになったその人はどうなわけ?」 「え」 「ブスだとかかわいくないとか、簡単に人に言うような人なわけ?見た目がちょっと好みじゃなかったからってそれだけでアンタを捨てるような人なわけ?アンタは、そんな薄情な人を好きになったわけ?信じてないわけ?」
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