537人が本棚に入れています
本棚に追加
64
「そうか〜ボクのウチ、昔の呼び名じゃないか〜」
「ボクのウチ? ベルク山がシルベスター君の家なの?」
「そそ、ボクの縄張り。あ、昔に悪さをして人をイジメちゃって、師匠に魔法をかけられちゃったから……日が暮れると、ベルク山……いまはローブル山か、その山から出れなくなっちゃうんだ」
子犬のシルベスター君は楽しげに笑った。
「こんなに可愛い見た目なのに……シルベスター君は悪い子犬なの?」
「フフ、昔はね。それにこの姿は仮の姿だよ〜本当はもっと大きくて、ロレッテちゃんを背に乗せてはやく走れる〜」
私を乗せて早く走れる?
ウルラートの王都は国土の中央にある。今、北のローブル山に馬車、馬で出ても夕方、下手をしたら翌朝になる。シルベスター君がどれくらいの早さかはわからないけど、馬を準備するにも時間はかかってしまう。
「シルベスター君お願い、ローブル山まで私を連れて行ってくないかしら?」
「いいよ〜どうせ帰らなくちゃいけないから、乗せて行ってあげる。ロレッテちゃん、大きくなるから城の外に出よう」
シルベスター君について城の外に出ると、彼は馬よりも大きな真っ白でモフモフな犬になり、私を背中に乗せてくれた。
「わ、わわ? すごい大きな犬?」
「残念〜ボク、犬じゃないよぉ〜魔狼――オオカミだから」
「オオカミ?」
「そそ、今は人にイタズラはしないから安心して〜ちょースピードで飛ばすから、しっかりつかまっていてね〜」
「う、うん。よろしくお願いします」
「よし! ローブル山までレッツゴー!」
シルベスター君は私を乗せて、軽快に走り出した。
❀
ロレッテがローブル山に向けて王都から出た頃。ロレッテの父、デュックは友好国ユートレイアに滞在する国王陛下に、緊急を要するフクロウを飛ばしていた。
(これで陛下の元に2、3日もあれば、フクロウは手紙を届けるだろう)
「あと、ここに王家専属の魔法使いを呼ばなくては……今、その魔法使いはどこにいるのかわからないが、呼び鈴のベルを鳴らせば来ると言っていたな?」
その呼び鈴を持つのがオルフレット殿下だ。
娘――ロレッテが彼の執務室でショックで寝込んでいる。その様子も見に執務室に向かい、デュックがそこで見たのは――【眠っているあいだ、神様にオルフレット様を治す薬のありかを聞きました。お父様、私はその薬を探す旅に出ます。見つけたらすぐに戻りますので、探さないでください】と書いてある手紙だった。
「ロレッテ……」
娘が心配だが、オルフレット殿下が身を守るための魔導具――髪留め、ペンダントなどを渡していると聞いている……その魔導具が娘を守ってくれると信じています。
デュックは祈るような思いで、オルフレット殿下の机にあった、魔法使いを呼ぶ呼び鈴を鳴らした。
最初のコメントを投稿しよう!