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「そうよね、ミーヤン。いつもねだったりしないミーヤンがねだるなんて、よっぽど欲しかったんだよね」 「うん……」 「お母さんは、どうしてわかってくれなかったんだろうね」 幼い頃の悲しさ悔しさが美羽の心に蘇った。 「お母さんは、いつも私のことを叱るの。あれはダメ、これはダメ、あなたは悪い子って。だから、わたしは全部我慢して諦めたの。あの花束以外……」 「すべてを諦める……」 その時、「そうだったのか!」と美羽は納得したのだった。「すぐに諦めてしまう」「欲しいものがわからない」「何がしたいのかわからない」美羽は自分のそんな性格の由来が理解できた。パズルのピースがピタッとはまったようなそんな感覚だったのだ。 「ミーヤン、長い間、我慢させてごめんね。でも、もう大丈夫、あなたには私がついているから」 「そうなの……?」 「うん。もう、我慢しないで、願い事があったらなんでも言って、私が叶えてあげるから」 「でも、お母さんに怒られる……」 「怒られないよ。もう、怖い人はどこにもいないの」 美羽は、部屋を見回す。一人暮らしの、そっけない部屋。けれど、美羽が頑張って手に入れた、大事な自分だけの城でもあった。 前は無機質に見えた部屋が、急に色づいていく気がする。無垢材を使ったベッド、大事なぬいぐるみ、友だちと旅行に行ったときのお土産の品。会社の女上司からもらった一枚のワンピース……。すべて、美羽が何度も何度も自分を恢復させようとして手に入れたものだ。 「もう、大丈夫だから……」 美羽がそう言うと、ミーヤンは安心したようににっこり笑った。 「おねえちゃん。ありがとう」 「うん……。大丈夫。あなたの味方は、もういるからね」 「ほんとう?」 「うん。私が……。私が、私の味方になるから。もっと自分を、大事にするから」 そう告げると、ミーヤンはきょとんとした顔をしてから、ゆっくりと、暗闇のなかに消えたのだった。 すぐに諦めてしまうことも、好きなことがわからないことも、やりたいことが見つからないことも、自分自身ではどうしようもない自分の生まれ持った性質なんだと思っていた。でも、幼い日の自分自身の気持ちを聞いてあげることが、今の自分の悩みを解決するのだと美羽は感じたのだった。 あたりが明るくなって、部屋に朝日が差し込み始めた。美羽は、昨日の花屋で素敵な花束を買ってあげようと思ったのだった。ミーヤンと、自分のために。               (完)
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