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02
無職になって半年が過ぎたころ、取り立ての男がマンションに来た。
間口の狭い古い部屋の入口で、男はすごむでもなく、言った。
「あんた、借金どうすんの? 返すつもりあんの?」
取り立てってまだあるんだ。
もう法律で禁止になったと思ってた。
「舐めてんの? なんとかいえよ、こら」
男の口調が変わる。頬を張られたような衝撃が体に走り、背中に定規を通されたように直立した。
「すみません」
気づけば、小刻みに何度も頭を下げ、繰り返していた。
すみません、すみません。なんとかします。
「わかったから。もういいから」
男が鷹揚に笑う。
男はよく見ると、なんてことのない男だった。
若くも年でも、かっこよくも不細工でも、背が高くも小さくも痩せても太ってもない。
こんな平均値みたいな男でも堕ちるんだ。
そう思うと怖くなる。自分だってもう十分に堕ちているというのに。
そうだ、私はいつも気づくのが遅い。だから、都会から逃げ遅れてこんなことになっているのだ。
どうしよう。
このままだとソープに沈められてしまう。漫画の世界が急に身近になる。
冗談じゃない。
私は借金の元になった男に会いに行くため、化粧をはじめた。
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