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宗幸は連日、白崎のマンションへ通った。料理と、セックスをするためだ。白崎は最近血色がいい。
健康を意識した献立を心がけている。白崎は一言も「おいしい」とは言わないが、変化が目に見えるだけで宗幸は満足だった。仏頂面でも、綺麗な男が食事する姿は見ていて飽きない。この日も宗幸はアイランドキッチンから白崎を眺めていた。
「そんなに不味そうか」
こちらを見ることなく、急にそんなことを言われて戸惑った。
「そんなに、不味そうに見えるか。俺の食い方は」
「……いえ」
胸がチクリと痛んだ。
「……まずい、ですか?」
おいしいと言われたことはないが、まずいとは夢にも思わなかった。宗幸はキッチンを出て、ダイニングテーブルへ詰め寄る。
「申し訳ございません。お口に合わないようでしたら別の」
「いい、なんでもない」
「ですが」
「お前も食ってみろ」
白崎は箸を置き、酢豚の乗った皿を突き出した。
やっぱりまずいんじゃないか……
宗幸は訝りながら箸を取った。宗幸の舌にはちょうどいい美味だ。
ということは味覚の問題か。白崎と自分は、根本的に食の好みが合わないのか……
「お前だってうまそうに見えない」
白崎に言われ、宗幸は「えっ」と彼を見た。
「それがうまそうな顔なのか」
うまくたって顔に出るばかりじゃない。それに味見済の、自分が作った料理だ。
返答に困っていると、白崎は食べかけの料理に視線を落とし、言った。
「明日は夕月に行こうか。お前も好きなものを食えばいい」
胸に、鋭い痛みが刺した。俺の料理じゃダメなのか。あんたの口には合わないのか。それがこの任務になんら影響のないことだと分かっていても、ショックだった。
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