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会食以外で夕月を利用するのは初めてだ。個室に通され、白崎と向かい合うようにして座る。
出された料理は、当然だが宗幸の作るものとはレベルが違っていた。これが白崎の慣れ親しんだ料理なのだ。自分の料理など口に合わなくて当然だ。卑屈な気持ちで食していると、「うまいか?」と問われた。
「うまいです。こんなうまい料理、白崎さんの下につくまで知りませんでした」
白崎は満足気に頷いた。そんな反応に宗幸はドキリとしてしまう。
相手はヤクザだ。宗幸は不純な気持ちを封じ込めた。
「お前の好物はなんだ」
「好物……ですか」
特別好きなものは何だろうと考えると、廊下から、乱暴な足音が聞こえてきた。ドカドカと目的地を目指す音。近づいてくる。白崎は箸を止め、宗幸は立ち上がった。
勢いよく襖が開かれ、静止する間もなく、大柄な男が入ってきた。知った顔だ。白崎が薬物の卸売業者とするなら、男は小売業者……売人だ。
「やっぱりここにいたか」
濁声が部屋に響いた。男は白崎の隣にあぐらをかいて座ると、馴れ馴れしく肩を抱いた。その光景に、宗幸の腹がズシリと重くなる。追い出そうと一歩踏み出すと、白崎が顔を上げた。目で止められる。
「なあ、俺はいつまで待てばいいんだ。こっちはとっくに品薄なんだよ。早く供給してくれや」
「あんたに売ったのは二ヶ月分。まだ余裕があるはずだ」
「縄張りを広げたんだよ。欲しいやつはいくらでもいる」
嘘だ。男は売り物に手をつけたのだ。目つきがおかしい。
「供給の目処は立っていない。我慢するんだな」
バン、と男が机を叩いた。
「知ってんだぜ。あんた自分で使ってんだろ。溜め込んでんだろ。いいから大人しく俺に寄越しな。でなきゃ」
白崎がこちらを見た。追い出せ、の合図だ。宗幸は了解し、男を部屋から連れ出した。従業員は知らぬ顔だ。
外へ出ると、男が喚きながら襲いかかってきた。宗幸はそれをかわして男を数発殴って倒した。男は大柄だが、肉つきはだらしない。
地面に突っ伏す男を見下ろしながら、宗幸は刑事に発信した。
「ああ、俺っす。ヤク中を見つけましたよ。くだらねえ揉め事です。俺の暴行罪はノーカンで。ええ、どういたしまして」
これでこの男はムショ行きだ。白崎に近づくことはない。
背筋がゾクリとした。自分の立場を忘れて、個人的な独占欲によって行動してしまった。
好きなのか、俺は。あのヤクザ者を……
宗幸は呆然と立ち尽くした。任務の最終地点を想像する。清水港、密輸船を待つ白崎の一味、その中には自分もいる。密輸船が到着し、取引が行われる。そこを麻薬取締部が一斉に包囲する。アッと狼狽する白崎と目が合う。白崎や他の部下は取り押さえられるが、宗幸だけは誰の手にもかからない。白崎の瞳が困惑に揺らぐ。お前、俺を騙して……
「帰ろうか」
背後から白崎の声がし、宗幸は飛び退いた。
「そんなに驚くことないだろう」
白崎が上品に笑う。腕に、宗幸のコートを抱えている。「一人で退屈だった」そう言って、宗幸にコートを羽織らせる。部下にする行為ではない。白崎は俺のことをどう思っているのだろう。ただの睡眠導入剤か、それとも別の……
「白崎さん」
「ん?」
なけなしの理性が働き、宗幸は言葉を飲み込んだ。
マンションにつく。中に入るなり、宗幸は白崎をキツく抱きしめた。寝室まで待てなかった。性急に白崎の唇を求め、引き締まった尻をまさぐる。これはまずい。頭では分かっていても、白崎の体温と甘い声に理性が麻痺していく。ベルトに手をかければ、それを察した白崎が自らベルトを外し、従順に下着まで下ろしてくれる。宗幸は口角を引き上げた。
「そんなに俺が欲しいですか」
耳の中に吹き込むと、白崎は吐息のように「ああ」と答えた。
壁に両手を付かせ、立ったまま背後から犯す。
「ああっ、うっ……く、んんっ」
腰に指を食い込ませ、根本まで突っ込み、勢いよく引き抜く。細身の体がなす術もなく激しく揺れ、喘ぎ声が苦しげに引き攣る。
「あっ、いっ……んあああっ、あっ」
尻を赤くなるまで張った。こうされたいのは白崎で、自分は白崎の期待に応えているだけだ。これは任務の範疇だ。そう言い聞かせ、夢中で腰をゆすった。
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