鮎川町歌声自慢大会

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 咲が歌い終えてから数人が、壇の中央に進み出て歌声を披露した。そんなに上手くないな、と咲は思った。  本当にグランプリをとるかもしれない。10万円、何に使おう。頭は早くも皮算用を始める。 「最後の出演者です。三石凛(みついしりん)さん。彼女も中学2年生。最年少です」  凛、と呼ばれた黒髪の女の子がステージ中央へ歩く。肩まで届く髪、白いワンピース。いかにも清楚といった雰囲気だ。派手好きな咲とは話が合わないかもしれないなと思った。  曲が始まり、凛が歌い始める。  雷に打たれたような錯覚がした。咲は照明で温まっているのにもかかわらず、鳥肌が立つのを感じた。  めちゃくちゃ上手い。技巧だけではない。リラックス状態から放たれる歌声は角がなく、なめらかだ。情感豊かな歌詞が胸に伝わってくるようだ。声の響きも別格だ。 「三石凛さん、ありがとうございました」  司会のお姉さんが少し興奮した様子で声をかける。  凛は深々と一礼した。  少しおいて、会場から割れんばかりの拍手が起こった。 「藤堂さん、いかがでしょうか」 「驚きました。プロでも通用すると思います。私のライバルになっちゃうかも。えへ」  藤堂あゆみが持ち歌を披露している間に、審査が行われる。  咲は先ほどまで受賞を確信していたが、凛の登場でかなり危なくなったと実感した。  約20分が経過した。  咲たち出場者が、ステージの真ん中に起立させられる。  ドコドコっとドラムが鳴らされ、照明が左右から当たる。  照明が一人の女の子の前で止まった。 「優勝は三石凛さん! おめでとうございます」  日本人形のように整った顔立ちの女の子が、一瞬驚いた顔をし、すぐに笑顔になった。  藤堂あゆみから、目録の10万円が手渡される。 「中学生とは思えない歌唱力でした。おめでとう」  咲は準グランプリを射止め、金一封の一万円を手に入れた。もちろん大金だ。間違いなくうれしい。だけど、同年代の女の子に負けたことが悔しくて仕方がなかった。
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