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次世代歌手発掘大会
咲は半年間、ボイストレーニングを続けた。陸上部との掛け持ちで体力的にはきつかったが、コンテスト入賞という目標ができたため、全力で打ち込むことができた。
雪のつもる寒い夜、裕也先生が一枚の紙を出した。
『次世代歌手発掘大会 まだ見ぬ才能を求めています。優秀者にはプロデビューも検討いたします』
「一度力試しに受けてみないかい?」
「やります。やらせて下さい」
半年前の、夏の自分とは違う歌唱を見せてやる。愛はスタジオのパソコンでエントリーした。
お母さんには「勝手に応募して」と怒られたが、お父さんが「これだけ真剣なんだから、いいじゃないか」と味方になってくれた。
当日。
咲は楽屋で化粧をした。リップを薄く塗る。
歌声自慢大会とは参加者が違う。みんな中学生か高校生だ。狭い楽屋には香水の匂いがあふれるようだった。
参加した女の子はみんなおしゃれだったが、咲も負けてはいない。大型のトレーナーを着こなす。陸上部で鍛えた足が露出し、自慢の脚線美が協調される。顔のパーツも、遺伝のおかげか整っている。後は本番で実力を見せつけるだけだ。
ふと遠くを見ると、楽屋の隅に、あの女の子がいた。三石凛。紺のワンピースを着ている。こんどこそ負けない。咲は闘志を燃え上がらせた。
選考会が始まる。
咲たちはステージに上がり、審査員に簡単な自己紹介をした。
審査員には、咲も知っているミュージックレーベルに勤める人がいた。これは緊張する。
今度の選考会は、凛が先手だ。
咲は舞台袖から、ライバルの歌唱を聴いた。
上手い。技巧のレベルが段違いに上がっている。咲は半年間レッスンにかよったため、耳が肥えた。情感たっぷりなメロディーに、力強いサビ。彼女の才能である透明感のある歌声に加え、声の強さが備わっている。
審査員が、熱心に紙にペンを走らせていた。
咲の番が回ってきた。全てを出し切るように歌った。我ながら完璧な歌い方だと思った。
30分の休憩の後、優勝者が決定する。
時間が来て、出場者が壇上に集められた。
「グランプリは、」
司会のお兄さんが少しためる。
「三石凛さんです!」
またしても凛にスポットライトが当たった。
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