桃太郎

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桃太郎

一年後 僕達は家にこもっていた。 かあちゃんはカレーを何日分か、作り置きしている。 なんでこんな事をしているかというとある噂を聞いたから。 「鬼ヶ島に桃太郎っていう、少年が攻めてくるらしいぞっ!」 いつ攻めてくるかはわからない。 だから、こうしてこもっている。 「こわいよ、かあちゃん」 僕がそう言うとかあちゃんは僕の頭に手をおいた。 「大丈夫。」 そして誰もが知っている子守唄を口付さんだ。 「ねんねんころりよ、おころりよ、坊やは良い子だねんねしな」 「僕まだ眠くないよ?」 かあちゃんは悲しそうな顔で僕の頭をコツンと叩いた。 「もう寝るのよ。」 その顔があまりにも怖かったもんだから僕は逃げるようにベッドに入った。 あつい……? そんな感覚がして僕は目が覚めた。 「かあちゃん?かあちゃんっ!?」 家にかあちゃんがいなかった。 桃太郎が来るから外は危ないっていうのに。 僕はドアを開けた。 と開けた瞬間に懐かしい顔が部屋に入ってきたのだ。 「キジ!どうしてここに!?」 僕は驚きと嬉しさでつい大声を出してしまった。 ただ、キジの顔を見てそんな状況ではないことは分かった。 「鬼郎くん…隠れてください。桃太郎は鬼を皆殺しにするつもりです」 キジは僕にそれだけ伝えるとドアから出ていった。 「こんな再会でごめんなさい…」 と呟いて。 僕はベッドに隠れた。 ゴウゴウ…となにかが燃える音がするけどそれも聞こえない。 桃太郎が来ちゃったんだ。 かあちゃんがいないからかいつもよりも寒い。 かあちゃんがいないから…? かあちゃんはどこに行ったのだろう。 キジはかあちゃんのこと助けてくれたのだろうか。 それとも……。 炎が止まる音がして、ドアを開けてみるとそこにはただの荒れ地が広がっていた。 鬼の死体が転がって、みんなが着けていた宝石はなくなっている。 あの宝石はずっと昔に人間が僕達のことを嫌うから、どこかに行ってもらえる引き換えにもらったものなのに。 僕はふと思い出して、荒れ地をかけ歩いた。 「かあちゃん!かあちゃんっ」 キジは僕のことを助けてくれたんだ。だからきっとかあちゃんのことも。 だけど、かあちゃんは見当たらなかった。 見つけたのはかあちゃんのようなモノ。 顔がグシャグシャで、内臓なんかも飛び出てて。かあちゃんの自慢だった角も折れている。 ただ、ほかの死体と違ったのは何かで突かれた跡がなかったこと。 キジはかあちゃんを殺すつもりはなかったんだ。 許さない。 絶対に許さないからな、桃太郎。 絶対に敵を取ってやる。 鬼の子、鬼郎は母さんの死体の前でそう誓った。 完
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