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「ごめんね……翼くん。私、翼くんのこと忘れようとした。無かったことにしようとした。でも出来なかった」
私の言葉に頷きながら彼は聞いてくれている。私は間違っていた。彼のことを忘れたら楽になれると思っていた。でも彼の顔を見て分かった。
〝翼くん〟がいてくれたから今の私がいるのだ。
「翼くん、好きだよ」
「俺も好きだよ、ねね」
猫は私たち二人の間で姿勢よく座っている。まるで二人を見守っているようだった。
「いきなりいなくなってごめんね?」
「ううん。翼くんとまたこうして会えたからいいよ」
猫がニャーと鳴き声を出す。時間はもう残り僅かのようだ。私は山程ある言いたいことから言葉を選び出す。
「翼くん、会えてよかった」
「ねね、また会えたらいいね」
彼は屈託のない笑顔でそう言う。まるで私の家のゴールデンレトリバーを見たいと言ったその時みたいに目をキラキラとさせている。
「……うん!」
会えるはずないと分かっている。でも私は笑顔でそう答えた。
「それじゃ、翼くん元気で」
「ねねも、元気でね」
そう言うと彼は回れ右をして、猫と共に歩いていく。その後ろ姿が見えなくなるまで私はずっと見ていた。
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