【666】

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【666】

 うっすらと東の空が白く染まり夜が明けてきた。そこらじゅうからセミの声が聞こえて耳を(わずら)わせた。  早朝にも関わらず、ヤケに蒸し暑い。すでに寒暖計は三十度に迫ろうかという勢いだ。  このまま上昇すれば、今日も間違いなく酷暑日だろう。  ここは美浦市立魔界野小学校の校門だ。小高い丘の上にあり、周辺は自然豊かな山々に囲まれていた。  残念なことに、この魔界野小学校は今学期をもって廃校が決まっていた。  小学六年生の美少女、ビーナスは謎の怪人アルバトロスに脅迫され、朝早くから小学校へ登校してきた。 「くウゥ……」  まだ閉まったままの校門をよじ登り校庭を眺めた。 「うッ、うわァーーーーッ」  その瞬間、思わずビーナスは絶叫してしまった。 「なッ、なんだ。これは?」  目を疑うような異様な光景だ。  門の上から見下ろすと校庭の中ほど辺りに奇怪な数字が(えが)かれてあった。 「ううゥ……」無意識にビーナスはうめき声を上げた。  校庭には幾つもの机が整然と並べられ【666】と(しる)されてあった。 「【666】……?」なんとも不吉なナンバーだ。  いったい誰が、そしてなんのために【666】と机で校庭にかたどったのだろう。 「ゴックン」  知らぬ間にビーナスは固唾を飲んだ。急に胸の鼓動が激しくなった。身体じゅうに汗が滲むのは暑いからだけではない。  イヤな予感がしてきた。全身に鳥肌が立ちそうだ。  もちろん昨日までは校庭に机なんて置いてなかったはずだ。信じられないが、一夜にして校庭に(しる)されたのだろう。  机で【666】という奇怪な数字。  まさか校庭に悪魔でも召喚させるつもりなのか。書きかけの魔法陣というワケではないだろう。  だが子供たちのイタズラだとすれば、机を運ぶだけでもかなりの労力だ。一夜で仕上げたのだから、とても一人やふたりでは出来そうにない。 「ぬうゥッ、【666】だってェ。いったいどういう意味なんだ?」  ビーナスは怪訝な顔つきでつぶやいた。すぐさま門から飛び降り、校庭に入り込んだ。  辺りの様子をうかがうが、犯人らしき姿は見うけられない。『ミィーン、ミィーン……』と鳴くミンミン(ゼミ)の声だけが耳を(わずら)わせた。  校庭の真ん中にいくつもの机で【666】とかたどってあった。ビーナスは机の近くで様子をうかがった。だが不審なものは見当たらない。  その時、不意に背後から不気味な笑い声が響いてきた。 「クワッカカカァーーーーッ」 「えッ?」  驚いてビーナスが振り返ると背後に黒いマントをまとった男が立っていた。 「【666】は『獣の数字』なのじゃァ!」 「な、なにィ?」  思わずビーナスはその男を睨んだ。その怪しげな男は間違いなくビーナスの父親の魔王だ。  真夏だというのに漆黒のマントをまとい、甲冑のような暑っ苦しい恰好で現われた。  いくら父親でも、この恰好で突然背後に立たれるとビックリしてしまう。 「くウゥ、驚かせるなよ。ジジーかァ?」  ビーナスは憎々しげに眉をひそめた。 「ジジーではない。パパじゃァ。グワッカカカッ!」  すかさず魔王は高らかに笑ってみせた。 「あのなァ。朝っぱらから気色悪い笑い声を上げるな。ジジーがァ!」  すぐさまビーナスは心配げに辺りを見回した。
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