14人が本棚に入れています
本棚に追加
/85ページ
【666】
うっすらと東の空が白く染まり夜が明けてきた。そこらじゅうからセミの声が聞こえて耳を煩わせた。
早朝にも関わらず、ヤケに蒸し暑い。すでに寒暖計は三十度に迫ろうかという勢いだ。
このまま上昇すれば、今日も間違いなく酷暑日だろう。
ここは美浦市立魔界野小学校の校門だ。小高い丘の上にあり、周辺は自然豊かな山々に囲まれていた。
残念なことに、この魔界野小学校は今学期をもって廃校が決まっていた。
小学六年生の美少女、ビーナスは謎の怪人アルバトロスに脅迫され、朝早くから小学校へ登校してきた。
「くウゥ……」
まだ閉まったままの校門をよじ登り校庭を眺めた。
「うッ、うわァーーーーッ」
その瞬間、思わずビーナスは絶叫してしまった。
「なッ、なんだ。これは?」
目を疑うような異様な光景だ。
門の上から見下ろすと校庭の中ほど辺りに奇怪な数字が描かれてあった。
「ううゥ……」無意識にビーナスはうめき声を上げた。
校庭には幾つもの机が整然と並べられ【666】と記されてあった。
「【666】……?」なんとも不吉なナンバーだ。
いったい誰が、そしてなんのために【666】と机で校庭にかたどったのだろう。
「ゴックン」
知らぬ間にビーナスは固唾を飲んだ。急に胸の鼓動が激しくなった。身体じゅうに汗が滲むのは暑いからだけではない。
イヤな予感がしてきた。全身に鳥肌が立ちそうだ。
もちろん昨日までは校庭に机なんて置いてなかったはずだ。信じられないが、一夜にして校庭に記されたのだろう。
机でかたどられた【666】という奇怪な数字。
まさか校庭に悪魔でも召喚させるつもりなのか。書きかけの魔法陣というワケではないだろう。
だが子供たちのイタズラだとすれば、机を運ぶだけでもかなりの労力だ。一夜で仕上げたのだから、とても一人やふたりでは出来そうにない。
「ぬうゥッ、【666】だってェ。いったいどういう意味なんだ?」
ビーナスは怪訝な顔つきでつぶやいた。すぐさま門から飛び降り、校庭に入り込んだ。
辺りの様子をうかがうが、犯人らしき姿は見うけられない。『ミィーン、ミィーン……』と鳴くミンミン蝉の声だけが耳を煩わせた。
校庭の真ん中にいくつもの机で【666】とかたどってあった。ビーナスは机の近くで様子をうかがった。だが不審なものは見当たらない。
その時、不意に背後から不気味な笑い声が響いてきた。
「クワッカカカァーーーーッ」
「えッ?」
驚いてビーナスが振り返ると背後に黒いマントをまとった男が立っていた。
「【666】は『獣の数字』なのじゃァ!」
「な、なにィ?」
思わずビーナスはその男を睨んだ。その怪しげな男は間違いなくビーナスの父親の魔王だ。
真夏だというのに漆黒のマントをまとい、甲冑のような暑っ苦しい恰好で現われた。
いくら父親でも、この恰好で突然背後に立たれるとビックリしてしまう。
「くウゥ、驚かせるなよ。ジジーかァ?」
ビーナスは憎々しげに眉をひそめた。
「ジジーではない。パパじゃァ。グワッカカカッ!」
すかさず魔王は高らかに笑ってみせた。
「あのなァ。朝っぱらから気色悪い笑い声を上げるな。ジジーがァ!」
すぐさまビーナスは心配げに辺りを見回した。
最初のコメントを投稿しよう!