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その晩、じいちゃんからも昨日の事を教えてもらった。
駅前のホテルで彼女を待っていたのはデュボア家の老執事で、前の一件で若い頃のうちのじいちゃんとも散々やり合った旧知の人だったという。
「アルフォート・ミッターマイヤー様」
彼はじいちゃんを見て深々と頭を垂れ、泣きながら謝っているクリスティーンをギュッと抱きしめたという。それは使用人と主人と言うより、まるで祖父と孫のようだったとじいちゃんは言った。
「久しいねロッシュフォール」
「はい、お久しぶりでございます。この度はお嬢様が大変なご迷惑をお掛けして、誠に申し訳ございません」
彼は他の者にクリスティーンを頼んで部屋に向かわせた。何度もじいちゃん達の方を振り返りながらその姿がロビーの向こうに消えて行った。
「あまりクリス嬢を叱らないでやってくれると嬉しい。うちの方から今度の件で賠償を請求する考えなどは無い」
「いえ、主の方からはこの件に関しては十分な額を準備したいとの伝言を賜っております。出雲様にも多大なご迷惑をお掛けしました」
「俺も金は受け取らんぞ」
親父が言ったという。親父は運転席から降りてもいなかった。
「俺はこの場に至っても彼女とはひと言も会話を交わしていない。故に関係性は認めなくても良い。関わったのは俺の父の方だ、その父がそう言うなら俺に文句は無い。父さん、帰ろう」
「だ、そうだから。ロシュフォール、あとはよろしく頼んだよ」
じいちゃんは苦笑して車に乗り込んだ。それでさっさと帰ってきたと言う。
「拓海がクリスと話した会話の内容は、車のナビに中継されていたから私達も知っているよ」
へ?あ〜そうだった!親父の車はそうなっているんだっけ。マジかよ…忘れてた。俺の声は車の中で一斉放送されていたんだ。
ちょっと…恥ずかしい。あれを聞かれていたのか。
「櫂は帰ってからあの言葉をそのまま洸に伝えたんだ。洸はそれを聞いて泣いていたよ、薔子も美音もね。母を思う素敵な言葉ばかりだった」
……どうも。
「うちの娘の子育ては、決して間違っていなかったって話しよね」
ばあちゃんが温かい麦茶を煎れてくれた。
「その洸を育てた薔子は、もっと素敵だって事だよ」
「まぁアルったら」
……またまた、どうも。そろそろ部屋に帰ろうか。
本当に敵わない、うちの守護神たちはとんでもない無敵揃いだよ。
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