また会いましょう

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 3年前のことだった。  大学受験を、終えてあとは卒業式だけ、というころ。  卒業式でちょっとしたサプライズをしようということになった。大学や就職が決まっていた有志で集まって韓国のアイドルグループのダンスと歌を完コピして卒業式のあと発表するというもの。    私、片貝リナもそれに加わって、と言うかもともとダンス部に入っていた私はその有志の中では中心になっていた。  その日も最後の練習を終えて二日後の本番に期待をしていた。その帰り道、突然目の前の風景が歪んだ。貧血?とか考えたのは一瞬。暗闇があけたとおもうと私の世界は全く知らないものに変わっていた。  中世ヨーロッパのような建築様式のお屋敷のお庭に高校の制服姿の私が立ち尽くしていた。    急に目の前に現れた私を見て、お茶会でもしていたのか、貴族風の衣装をきた人たちが、騒ぎ立てる。  上を下への大騒ぎのあと、この屋敷の当主らしき人に保護されることになった。  冴えないおっさんだな、と思ったけど、中年太りのハゲおやじはこの国の宰相だったらしい。  夢だと思っていたけど、何度寝ても起きても全く状況は変わらない。自分の世界に帰る術もない。  泣いて喚いて、諦めて、受け入れる頃には数ヶ月が経っていた。    宰相のおじさんにお世話になってばかりもいられない。なんとかこの世界で生きていくことを考えなければ、と思ったが普通の女子高生の私にできることなど何もなかった。  異世界転生ものの本を読んだこともあるけど、私にはその本に書いていたような「チート」も「知識」もなにも芽生えていなかった。  友達が受験の息抜きに、と貸してくれた何冊かの本には「味噌や醤油をこの世界にもたらす!」だとか書いていたけど、味噌も醤油もチョコレートもぜーんぶお店で買ってくるものだ。薬を作って人々を救う、なんて話もあったけど、当然ながらできるわけはない。  役立たずの私だったが、この国の王に謁見をしたとき(宰相のおじさんが、異世界の娘を保護するにあたって呼び出された)、何ができるのか問われ、ヤケクソで 「神に捧げる歌と踊りができる」と言ってしまった。  冷ややかな目で私を見る貴族風の老若男女が見守る中で、練習していたKポップの完コピの歌とダンスを披露した。  場は静まり返った。しかし、その後大喝采がおこる。おまけにその場にいた一番の長老が立ち上がって私に近寄ってきた。 「公爵様が立った!歩いた!」と周りの人間があたかもあの名アニメの「クラ○が立った!」みたいに盛り上がる。  それがきっかけで私は奇跡を呼ぶ異世界の少女だと言われた。  国中を回り、ダンスや歌を披露する。  偶然にも回った場所で豊作になったり、病の人の体調が良くなったり、ということがおこると、人々は私を「聖女」と呼ぶようになっていった。いやー、絶対偶然だよ?  なんなら「奇跡がおこる」って信じてるからこそのプラシーボ効果じゃないかと思う。  そして、そんな中、病弱と噂のこの国の王子様に引き合わされた。  王子様は13歳。私より5つも年下だった。  線が細くて背も私よりちいさくて。びっくりするくらい美少年だった。  特に病気なわけでもなく、食が細くて虚弱体質の王子様に、歌の発声や、ダンスを教えた。体力づくりのヨガやストレッチ、筋トレなどを少しずつ試しているうちに、いつの間にか王子様はすっかり美丈夫の青年に着実に育っていった。  王子様は私に恋をしたらしい。毎日のように私を口説き、愛をささやく。ヤンデレ気味だが類稀な美貌の美青年に2年も絶え間なく甘々に扱われて、あっさり私も落ちた。    私が20歳、王子がこの国の成人年齢15歳のとき結婚をした。  間もなく私は妊娠して、王子の過保護ぶりはとどまることを知らなかった。  私が一人になれるのはトイレの時ぐらいだ。    そして、いつ出産しても不思議でないと言われるようになった。赤ちゃんに刺激されてなのかトイレが頻繁になってきた。  その日の何度目かのトイレに行ってドアを開けた瞬間、覚えのある空間の歪みを感じ、気づけば大きなお腹をふわふわのマタニティドレスに包まれて、懐かしの我が家の前に立っていたのだ。      
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