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「あー、帰ってきたんだ」
今度の着地地点は見覚えのある王宮の廊下だった。
突然現れたベビーカーに息子をのせた私に、城の役人や侍女、騎士が駆けつける。
やってきた人たちの中に、見覚えのあるおじさんがいた。宰相様だ。
前回この世界に来たときに私の面倒を見てくれて、王子と異世界のムスメとの縁を結びつけてくれた人。びっくりするくらいおじいちゃんになってるのは私がいなくなって苦労したから?
「聖女さま!」宰相のおじいちゃん、いや、おじさんは私に近寄ってきた。
「おかえりなさいませ!よく……よくお戻りになられました」
騒然とする雰囲気にベビーカーの中の息子が泣き出した。全員が息子に注目し、注目された息子はますます泣き続ける。ベビーカーのベルトを外して息子を抱き上げた私の後から冷たい声が聴こえた。
「……どういうことだ?」
振り向いた先には信じられないくらいの色気のある20代後半のイケメンが私を睨んでいた。
「え?え?お……うじ?」
一年前に意図せず別れたはずの、美少年がとんでもないイケメンになって私と息子を見下ろしている。
「リナ……お前は俺を捨てて他の男の子供を産んだんだな?あのときの子供はどうしたのだ?王の血を引く子供を連れ去ったのだ。罪は重い」
「え?王子、王になったの?王様は?」
「父王は2年前に亡くなった。最後までお前が連れ去った孫を心残りにしていたよ」
「え?お義父さま、なくなったの?うそ!え?2年前?」
改めて王子、いや新国王をみる。
「王様……。大人になりましたねぇ」
「…、あ、当たり前だろう!あれからもう10年だぞ!?………ん?お前は変わらない……な。相変わらず可愛らしい……じゃなく…いや、その…」
モゴモゴいう。あー、なるほどね、と思う。どうやらこの世界とあっちの世界の時間の流れがズレている。
戻って生まれた息子が一歳になった時間でこちらは10年近い日々が流れているらしい。
「王子、いや、王様。なんかいつの間にか私より年上になっちゃったんですねー」
「え?」
「……王様、この子、抱っこしてみてください」
私は息子の被っていた帽子をとって王様に受け渡す。
「な!なんで!憎い他の男の子供を俺が……」
無理やり渡された息子を見た王様が絶句する。王家だけに現れる淡い金髪と瞳に星の入ったエメラルドグリーンの瞳をみて信じられない顔をする王。
「今日、一歳の誕生日なんです。貴方と私の息子です」
「……俺の?……まさか……」
宰相が赤ん坊の顔を覗き込み叫ぶ。
「お、王様の小さい頃にそっくりです!耳たぶに小さなホクロがあるところまで!」
「……パァパ?」
このタイミングでパパと言う我が息子、天才。
「ほ、本当に……あの時の子供?」
「はい!そうです。よかったー!一歳のお誕生日、パパにも祝ってもらいたかったから……、あ、でも……」
その可能性に気づき青くなる私。
「どうした?リナ?」
「王子、いや、王様、もう、新しい奥さんとかいます?いますよねぇ?子供とかもう、いちゃったりします?この子、お兄ちゃんだけど、年下になりますよね。いや、ていうか、新しい奥さんにしてみれば私とこの子、今更どの面下げて、って感じですよねぇ。うーん、なんとかもう一度元の世界に戻れるように頑張って見ますけど、方法わからないんですよ。だから、わかるまでどっかで親子二人生きていけるように小屋でもいいので貸してもらえないですかね?」
「ちょっ!!!ちょっと待て!リナ!」
「はい、待ちます。新しい奥さんにはちゃんと目に入らないように大人しくしますし!」
「いないー!新しい妻などいない!俺にはお前だけだ!今も昔もこれからも!」
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