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カタ、と小さな物音で目を覚ます。
ちらりと横に視線を向ければ殿下が満足そうな表情を浮かべて眠っていた。
俺はふっと笑みを浮かべると、情事の跡を色濃く残す素肌にローブを羽織る。首元の紐を切った為手で押さえなければならないが、まあ良しとする。
色んな液体でどろどろになった童殺セーターをもう一度着る気にはならない。
ローブと共に床に放り捨てた短剣を拾うと、足音を立てないよう気をつけクローゼットへ近づく。
「お楽しみいただけました?」
両開きのその扉をゆっくり開けば、そこには縄で拘束され猿轡を咬まされたコリンの姿があった。赤いような青いような不思議な顔色をしているのは、先程までの行為を思い出したのと、この先の自分の身を案じている所為だろう。
なんせ縛られて自由を奪われた上、俺は凶器を手にしているのだから。
生かすも殺すも俺次第と言うわけだ。
「・・・っ!ーーー!」
「うん?あまり気に入らなかったようですね。私の前であんな事をする位だから、てっきりそう言う趣味なのかと思ったのですが」
分かっている。
あの温室での出来事があくまで俺に対する牽制でしか無い事は。それでもこれくらい言う権利、俺にはあるだろう。
「その目、なんだか納得いってなさそうですね。言いたいのは"お前が言うな"ってところでしょうか」
「・・・!」
本心を見透かされ、コリンの顔色がより青く染まる。俺はわざとらしくコリンの眼前で短剣を揺らすと、雪の妖精と呼ばれるほど可憐に整った顔に笑顔を浮かべてみせる。
「こっちにだってそんな趣味ねーよ。お前と同じ牽制だっての。ハングリー精神旺盛なのは良いが、うちの国では止めときな」
コリンはぎょっと目を見開くと、恐ろしい物を見たかのように震え出した。今までの大人しく従順な性格を知っていた、そうなる反応も無理はない。
まあ、そんな性格なら殿下に夜這い掛けて乗っかって腰振ったりしないだろう。
「それに、ちょろ可愛いあの王子様は、俺だけのものなんで」
「・・・ッ!!」
俺はニヤリと悪どい笑みを浮かべると、手にしていた短剣を振り上げた。
「リオン様」
音もなく背後に立つ側近に内心どきりとしながら、それを表に出さないようゆっくり背後を振り向く。
側近はなんとも言い難い複雑そうな表情を浮かべていた。仕方ない事だろう。この人の忠誠を誓っていたリオンとは、まるで為人が違うんだから。
俺は小さく溜息を吐くと、手にしていた短剣を預けた。側近は頷くと、俺に怪我が無いか確認するように上から下まで視線を向けた。若干視姦されているような気分になるのは気の所為だろう。
その視線から逃げるようにクローゼットへと向き直れば、どこか恍惚とした表情を浮かべながら気絶しているコリンの姿が目に止まる。振り上げた短剣で切ったのは、コリンを拘束した縄だけだった。縛って閉じ込めておいてと思われるかもしれないが、元々コリンを傷付けるつもりはなかった。
俺は優しく大人しいリオンであり、平和を愛する日本人なんだ。
「さて、色々聞きたいこともあるだろうけど、その前にもう一仕事してもらいたいんだ」
コリンをいつまでもこの部屋に転がしておくわけにもいかないし、それともう一つ。
ーーーコリンを裏で操る、真の悪役とやらを潰しに。
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