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十年ぶりに見かけたミヤコは、大学生のグループがひしめき合う騒がしい飲み屋の中で姿勢を正して食事をしていた。
サークルの飲み会だった。他の大学の奴も来るとは言われていたけれど、そこでまさかこんな再会をするとは露ほどにも思っていなかった。
「おっせぇぞ、ユウジー!」
少し遅れて到着しただけだと言うのに場はもうほとんど出来上がっていた。酔うよりも早くノリだけで騒げる人間が、大学にはなぜか多い。
友達の大声に僕は軽く手を振った。悪い悪い、と口先だけで謝りながらも、すべての神経やアンテナはミヤコに向かっていた。
僕はミヤコに気づいたし、ミヤコもおそらく、僕に気づいていた。
どこに座ろうかと首を巡らせた僕と、新たな人間の到着に顔を上げたミヤコの視線は、たしかに一瞬、合ったのだから。
だけど僕らは、すぐに視線を逸らした。
また会えたね、とも久しぶりだね、とも言わなかった。近くに座ることもなく、相手のことを少しも知らない振りをしたまま、僕は騒がしい空気に馴染んで溶けるように存在を薄めた。
ミヤコも表情を変えることもなく、端然としたままそこに座っていた。
仲間とビールで乾杯をしようとした時、ミヤコの箸使いが目の端に映った。
(箸、使えるようになったんだな)
それは小さな驚きと大いなる感嘆を僕にもたらした。さわさわと、心に風が吹く。
ミヤコが僕の前から消えたのは小学四年生のこと。
あの頃ミヤコは、箸を握って使っていた。
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